若君
かっぽかっぽかっぽ。馬はゆっくりと進む。ゆっくりゆっくりとだが都はどんどん遠ざかる。
風で飛ばされそうな高烏帽子を押さえた。
何日も馬で旅をしていたので、衣服も肌もうっすらと土ぼこりがたまっている。
背後の都はもう見えない。
背後には徒歩でついてくる従者たち。彼らもまたもはや障害都の土は踏めない身の上だ。
そして、たどり着いたのは貧相な屋敷だった。
「なんと、帝の光栄であらせられる若君がこのような」
そう言って幼いころから仕えていた老いた侍夫婦がその場に膝をつきそうな顔をした。
若君は、すでに諦念の顔で馬から降りた。
屋敷は古びて掃除をされた形跡はなかった。
屋敷自体も誇りがたっぷりとたまっていた。
老いた侍の指示で掃除が始まる。その光景をぼんやりと若君は見ていた。
京の寝殿造りの建物の中でしか暮らしたことのない若君にはこの屋敷はとてもみすぼらしく見えたが。この辺りではかなり立派なほうだがそのことは若君にはわからない。
ずっと公卿として宮中に仕える身分となることだけを目標に物心ついたときから勉学に励んでいたがそれもすべて水泡に帰した。
彼は挫折し、都から追放された。彼に残されたのは地方の荘園だけだった。
荘園を束ねている管理者、田戸は、一向に姿を現さない。
彼が着くことを知らせていたはずなのに屋敷は荒れたままだ。
「若君、そろそろお休みになれますぞ」
老侍がそう呼んだ。
室内に入ってみれば、埃はすでに掃きだされ、一通り拭き掃除は住んでいた。
しかし、座るところにあるはずの畳がない。
その代わりに藁で編んだ粗末な敷物だけがあった。
「爺、畳は?」
「ございません、この辺り四方八方どれほど探してもないのです。畳を作れる職人自体がいないのです」
その言葉に若君は青ざめる。
「では、どうやって寝るのだ」
「藁を束ねたものを敷いて寝具としているようです」
めまいがした。まともな生活調度すら手に入らないのか。
「受領などはいったいどうしているのだ?」
地方に派遣される公家はいったいどうやって調度などを手に入れるのかと疑問に思う。
「あれらは都からすべて持っていくのです」
ただため息しか出なかった。




