第七話 呪詛と怪異の深淵
呪詛と怪異が融合する深淵へ、岸本とヴィクトルが突入!
言霊と科学兵器の相乗効果が、この未曾有の危機を打ち破る!
第一章: 苛立ちの実験室
薄暗い実験室の空気は、消毒液の鋭い匂いが鼻を刺し、冷たい金属の器具が無機質な光を帯びていた。
中央の手術台の上には、メンゲルの姿があった。
肌は白磁のように美しいが、生気がなく、まるで人形のようだ。
「これまでのデータを以てしても、なお足りぬのか……」
ヴィクトルの声は低く、抑えきれない苛立ちが滲み出ていた。
第二章: ノイズの電話
一方、岸本探偵事務所では、穏やかな日常がゆったりと流れていた。
「このコーヒー、スーパーの見切り品で買ったけど当たりだったよなぁ。香りもいいし。もっと買っておけば良かった」
「あれ? 前見切り品をまとめ買いして『買って損したぁ!』って騒いでたのは誰だったかなぁー?」
真琴がスマホを弄りつつ、少し意地悪な笑みを浮かべる。
「あれは本当に不味かったんだよぉ! 真琴も飲んでみりゃ良かったのに」
「嫌よ。苦い飲み物嫌いだもん」
抹茶ラテの入ったカップを軽く振ってみせる。
そんな二人の会話に割って入るように、電話の甲高いベルが鳴った。
「はい、岸本探偵事務所」
岸本が受話器を取ると、耳障りなノイズが響いた。
「岸本か。また依頼を頼みたい」
機械の合成音、【ノイズ】からの指令だった。
「場所は隣県、板柱市郊外の山中。かつてカルト教団の本部があった場所だ。予備調査により、現在強大な怪異の発生が確認されている。詳細な資料・情報はすでに送ってある。確認次第、真琴くんと共に現場に赴いてくれ……健闘を祈る」
ガチャン。電話は一方的に切れ、事務所に静けさが戻った。
資料には、板柱市の山奥にあった新興宗教「天の声」に関する詳細が記されていた。
教祖、天城 光明が突如として取り入れた狂信的な教義――「最高の解脱は死である」――のもと、数百人の信者が集団自殺を遂げた。
逃亡を試みた者も多くいたが、他の信者によって残虐に殺害され、血塗れの惨劇が繰り広げられた。
現在、教団本部の廃墟にて怪異の発生を確認、特異事象科学解析局による予備調査によると、この怪異は過去最大規模のエネルギー密度を計測しており、急速な勢力拡大が確認されているという。
また、5キロ先の施設で確認された呪詛【鉄崎剛】が、呪滅探偵を殺害、逃走中。
遭遇した際に対応する為、真琴との合同調査となる。
更に今回は、ヴィクトル・メンゲルも派遣され、怪異の調査・解析・及び機器の運用実験が行われる事が記されていた。
「またあの二人かよ。呪詛まで絡んでんのか? 気が重いぜ…」
岸本の呟きに、真琴が厳しい目を向け、即座に応じた。
「でも、放置出来ないわ。行くわよ!」
真琴の迷いの無い声は、岸本の心を奮い立たせた。
第三章: 廃墟の気配
岸本の営業車兼自家用車は、板柱市の山道をくねくねと進んでいた。
窓の外には、鬱蒼とした木々が不気味な影を落としている。
「!…あの建物か? 馬鹿でかいのが建っている」
「どうやらそのようね。いかにも宗教施設って外観だわ」
車から降りて一拍すると、ヴィクトルとメンゲルが目の前に現れた。
「久しぶりだな……特に岸本。今回のデータ収集には、お前に助手になってもらうぞ」
「ご無沙汰しております。またお二人にお会い出来て光栄ですわ」
ヴィクトルの冷徹な眼差し、メンゲルの無機質な微笑み――以前と同じ、底のしれない不気味さがある。
「助手? 俺に何をさせるつもりだ?」
岸本は動揺を押し殺しながら尋ねた。
「お前が考える必要はない……儂の指示に従っていれば良い」
「ヴィクトル! あんたね、それが人に物を頼む言い方? あんたの研究に水を差すつもりはないけど、岸本の邪魔したら承知しないからね!」
真琴の鋭い声が、森に響き渡る。
現場は、廃墟と化してから相当な年月が経過しているようだ。
「酷い荒廃ぶりだな。数珠に…あれは経典か何かか? ここで何百人も死んだのかと思うと、寒気がするぜ」
「私は建物の劣化の方が怖いわね…。崩落して来て死んじゃうなんて、シャレにもならないんだから」
軽口を叩く真琴の目が、突如として鋭さを帯びる。
「…! 皆用心して。どす黒い邪気が近付いているのを感じる!」
「ほう。今回は怪異だけかと思っていたが、嬉しい誤算だな」
「どんな被検体か楽しみですわね、ヴィクトル先生」
科学者たちの冷笑が響き渡った。
第四章: 呪詛の顕現
ズウゥゥン。
中央ホールに足を踏み入れた瞬間、轟音とともに建物の壁を突き破り、巨大な人影が現れる。
それは、全身が硬い筋肉に覆われた呪詛だった。強い邪気を放ちつつ、ゆっくりと近づいて来る。
「何だよあいつ…4メートルはあるぞ…?」
「呪詛よ、皆離れて! 邪気を浴びすぎるとただじゃ済まないわよ!」
真琴の叫びが響く中、呪詛が嘲笑を浮かべた。
「ほう、先客か……ただの人間じゃねえな。呪術師の類か?」
真琴が一歩前に進み出た。彼女の目は炎のように燃えていた。 「呪滅探偵よ。あんたが鉄崎? こんな場所をうろついて、一体何を企んでるの?」
「企む? フハハ! 俺はただ、怪異を喰らいより高みを目指そうと思ってな。だがその前に……お前ら全員を喰らい取り込んでやろうっ!」
呪詛の筋肉がさらに膨れ上がり、金属のような光沢を放つ。威圧感が空気を震わせた。
「ふむ。高度な変異体だな。人間や呪詛を捕食し続け、邪気を増幅させたのだろう。対呪詛情報解析機器、起動」
「データ収集開始…。現データベースで確認された事のない邪気及び硬質な筋肉を確認……。良いデータが取れそうですわ、ヴィクトル先生」
二人の態度は、まるで戦場にいることを忘れたかのように淡々としていた。
第五章: 風の刃
(この荒廃ぶりだと、高威力の呪文は皆に危険があるわね…ならば、接近戦で片付ける!)
真琴が呪文の詠唱を始めた。
彼女の周囲に風がそよぎ、空気が震える。
「天空を舞う風の息吹よ、我が掌に集い、全てを断つ双剣になり給う――顕現! 双刃!」
真琴の両手に顕現した風の刃が、鉄崎の胸部を直撃する。
しかし刃は、彼の表皮をわずかに傷つけただけで、貫通することはなかった。
「フハハ! それだけか? 前に喰らった呪術師も、絶望しながら死んでいったぞ。お前も俺の血肉になれ!」
鉄崎が振り下ろした腕が床を掠めただけで、まるで隕石が落下したかのようにコンクリートが砕け散る。
更なる攻撃が真琴を襲うが、彼女は風のように、紙一重で攻撃を回避し続ける。
「はああああぁぁっ!」
回避しつつも目にも止まらぬ速さで連撃を繰り出す。
ギギギギギギギギィンッ!!
飛び散る火花と、焼けるような金属の匂いがホールを満たす。
ベキッ。
微かに響く音と共に、突如真琴の足元が割れ、体勢を崩す。
「しまった、崩落…!」
「もらったぁぁぁー!!」
ギンッッ!!
鈍い金属音が響いた。
「…対呪詛用破壊機器、高度変異体に対して効果微弱…損傷率1%未満」
「試作機ですからね。改良の余地はまだまだありますわ、ヴィクトル先生」
そこには淡々とデータを取るヴィクトルと、無反動砲のような機器を構えるメンゲルの姿があった。
ドンドンッッ!!
眩い破邪の光に包まれた砲弾が、更に鉄崎の胸部に命中し火花を散らした。 金属片が、激しく飛び散る。
「痛ってえな! この娘を喰らったら次は貴様らの番だっ!」
「…助かったわ、二人とも!」
鉄崎の攻撃を掠り腕から出血しつつも、更に斬撃を加速させる。
鮮血が散り、呼吸が乱れる。
「フハハ、無駄無駄! 俺の鋼の身体は――」
ズリュ……。
「…大した事、なかったみたいね」
――その瞬間、真琴の風の刃が鉄崎の胸を深く貫いていた。
「いでえぇっ! 俺のっ…俺の鋼の身体がっ! 何で…何で…」
「金属疲労よ。さっきから攻撃を胸部に一点集中して削り取ってたのに、あんたは気付いてなかったみたいね」
鉄崎は恐怖と苦痛に顔を歪めながらも吼えた。
「許さねえ! まずは怪異を取り込んでやる! お前の相手はそれからだ!」
「逃がすかっ!!」
踵を返し逃亡する鉄崎を真琴が追おうとした瞬間、ヴィクトルの言葉が彼女を制した。
「止めは刺さず追うぞ。あの被検体が怪異とどう融合するのか、是非データを取りたい」
「!…融合って、何かあったら責任は取れるんでしょうね?」
「勿論手は打ってある…。行くぞ!」
第六章: 怪異の深淵
一行は、かつて数百人が服毒自殺を遂げた大食堂にたどり着く。
「こりゃ酷えな…。長く怪異探偵をやってるが、ここまでの怪異見たことないぞ。怨念と絶望が渦を巻いてやがる…」
岸本の背筋に、激しい悪寒が差す。
「儂のデータにも記録がない程の、高密度の怪異だな。わざわざ来た甲斐があった。まさか呪詛と怪異の融合が見れるとは。…メンゲル、対怪異情報解析機器を」
「起動完了…。データ収集始めますわ、ヴィクトル先生」
鉄崎は満身創痍の状態で、大食堂の中心部分――怪異の真下に到達していた。
「くそ…待ってろよ! 怪異を取り込み、更なる肉体を手に入れてやる! 貴様ら全員喰らい尽くしてやるっ!!」
自らの邪気を最大限に放出し、怪異を取り込もうとしたその瞬間――まるで蛇が獲物を食らうが如く、怪異が鉄崎の足元を呑み始める。
「なっ? 馬鹿な! は、離せ…離しやがれぇぇ!」
鉄崎の身体はみるみるうちに呑まれ、消滅した。
虚空に響く悲鳴の余韻だけが、僅かに残った。
「怪異が……呪詛を喰った?」
岸本が呆然と呟く。
「私も驚いたわ。こんな事があるなんて…」
真琴も冷静さを保ちつつ、わずかに動揺を滲ませていた。
「強力な変異体といえど実体を伴う為、生体反応が弱まれば怪異に飲み込まれる。……これでまた、重要な事実が実証されたな。メンゲル、MG-01の用意を」
「承知致しました、ヴィクトル先生」
メンゲルが持つ黒い棺のようなケースから、次々とスピーカー状の物……殺人ピエロ禍津を打ち破った機器を取り出し、怪異の周辺に次々に設置していく。
その様子は、まるで何かの儀式のようだった。
「仮称でMG-01と名付けた。前回から更に運用を重ね、飛躍的に性能を向上させた。これ一つで、並の怪異なら容易に破壊できる。今回は複数使用するがな」
「こんな巨大な機械が、何でケースから次々と出せるんだ? こんな非現実的なことがあるなんて……」
岸本は驚きを隠せない。
ケースは機器を出すには明らかに小さい。
しかし無限の闇を内包しているようだった。
ヴィクトルは冷たく笑う。
「これは怪異が持つ、無限の空間歪曲を模倣した量子ストレージだ。この世に存在する現象な限り、どんな非現実も解析し、応用出来るのが科学だ。儂からしたら、お前たちの方がよほど非現実的だよ」
第七章: 深淵への突入
「岸本、儂はお前と共に怪異の内部に入る。実際に自身で入り、是非取得したいデータがある」
岸本が驚愕する。
「待て、待て! 変異体だって飲み込まれる怪異だぞ? 俺自身だってどうなるか分からない! ましてや素人のあんたが……」
「構わんよ、どうなっても。今回の調査、特に呪詛の乱入は僥倖だった……もし儂の仮説が証明されれば、呪詛と怪異の解明が飛躍的に進む」
ヴィクトルは、眉一つ動かさず淡々と答える。
しかしその目には、強い意志が宿っていた。
「何を言っても無駄みたいね」
真琴が呆れながらも、言葉を続ける。
「それで、この大仰な機械はどのタイミングで活用するの? まさか私たちに自慢する為に持ってきたわけでもないんでしょ」
「うむ。それは――」
――真琴の問いから数分後。
岸本とヴィクトルは、未だ渦巻いている怪異の深淵へと足を踏み入れる。
岸本は恐怖に震えながらも、真琴とヴィクトルの言葉を反芻しつつ勇気を振り絞る。
渦は二人を巻き込み、静かに闇に溶け込んでいった。
怪異の内部は、呪詛の有害な邪気が渦巻き、暗黒が支配する異空間だった。
(この…この怪異はまずい…! 一刻も早く脱出しないと、身体が…)
岸本の身体を、次第に邪気が蝕んで行く。
「呪詛の自我消失…怪異の隷属化にあるな。また、怪異に取り込まれる場合と、自ら侵入する場合では、自我の保持に差がある。……邪気による身体の侵食を確認。頭痛・発熱・倦怠感……」
ヴィクトルは、自身も邪気に身体を蝕まれつつも、冷静にデータを取り続けるが、遂に気を失い、崩れ落ちる。
「ヴィクトル!」
岸本が駆け寄りヴィクトルの身体に触れると、ヴィクトルの過去が鮮明にフラッシュバックされ始めた……。それは、闇の中で光る記憶の断片のように、岸本の心に流れ込んだ。
第八章: ヴィクトルの過去
春の鈴ヶ淵。陽光が柔らかく降り注ぐ、穏やかな風景が広がっていた。
ヴィクトルとメンゲルは、かつてここで幸せな時間を過ごしていた。
特異事象科学解析局の支部があり、ヴィクトルは所長を務めていた。
この地は、彼にとって故郷を思わせる安らぎの場所だった。
まだ少女だったメンゲルは、この地で天真爛漫に、のびのびと育っていった。
彼女の笑顔はさながら天使のようで、周囲を明るく照らした。
「お父さま!」
そう呼びながら抱きついてくる声は、ヴィクトルの心を、優しく温めてくれた。
だがそんな日常は、ある日粉々に砕かれた。突如現れた巨大な呪詛…常闇は、人を喰らい、街を破壊し、一帯を高濃度の邪気で汚染し尽くした。 メンゲルはその邪気を深く吸い込み、昏睡状態に陥る。
(父さんが助ける…絶対に助けてやるぞ!)
ヴィクトルの必死の治療で命を取り留め、長い昏睡から彼女は目覚めた。
「メンゲル、良かった…助かったんだ! 身体は何ともないか?」
――だが、次の瞬間。
「おはようございます、ヴィクトル先生」
穏やかに微笑む彼女には、かつての天使のような笑みはどこにも無かった。
代わりにあるのは、感情の欠片もない仮面のような笑みだけだった。
邪気に蝕まれた彼女の心は戻らなかったのだ。
(メンゲルを救う…! その為ならどんな犠牲だって払ってやる!)
ヴィクトルは残虐な研究もおぞましい生体実験も、眉一つ動かさず積み重ねた。
仲間からマッドサイエンティストと罵られようとも、メンゲルの笑顔を取り戻すため、呪詛と怪異の研究に没頭した。
だが、どれだけデータを積み重ねても、彼女の心を取り戻させる方法は見つからない。
彼の魂は、絶望の深淵で静かに朽ちていくのを感じていた…。
第九章: 言霊と科学と
高濃度の邪気に苛まれながらも、岸本はさめざめと泣いていた。
…ヴィクトルは、冷徹な化物なんかじゃない。
普通の父親だったんじゃないか…。 メンゲルを愛し、鈴ヶ淵でささやかな幸せを感じていた。
それを突然、全てを理不尽に奪われたんだ。
娘も、街も、自分自身の心さえも。 そして無力な自分を嘆き、娘の魂を救う事だけを願い、ひたすら孤独に戦っていた…。
彼は、真琴と同じだ。
いや…一体どれだけの人たちがこんな絶望を味わったんだ?
岸本は朦朧とした意識の中でも、懸命に神経を集中させ、叫んだ。
「怪異なんていない!」
駄目だ、空間が歪むだけ…。
邪気で意識が霞んで行く…。
もう、俺もここまでか…?
いや、違う…怪異に入る前――。
――「岸本。今回の怪異は、おそらくお前も経験したことの無いものになるだろう。
言霊で無力化出来ない可能性も考えられる。
――その場合、お前の出番だ」
真琴を指差しながら続ける。
「お前らが所持している【依代】を使い、メンゲルに指示を送れ。カウントダウンに合わせて、MG-01を全機最大出力で怪異に照射する。岸本の言霊と相乗効果で、怪異を無力化出来る可能性は高い」
「失敗する可能性も、あるって事だな。…だが、今叩かなけりゃ呪詛を完全に吸収して、更に手が付けられなくなるだろう」
震える身体を振り払い、笑顔で真琴と向き合う。
「行ってくるよ…。依代で呼ぶ時にはよろしくな、相棒」
「任せといて。きっちり怪異をぶっ飛ばしてきなさいよ!」
明るく笑顔で応える真琴。
――そうだ、真琴……。
一緒に頼む、力を貸してくれ……。
5秒前、4、3、2、1……。
「怪異なんていない!」
最後の渾身の力を振り絞り、拒絶の言霊を放つ。
同時に、MG-01全機から、怪異を焼き尽くすような強烈な光が放たれる。
その瞬間、数百もの断末魔が叫び――やがて、光と共に昇華していった。
薄れゆく意識の中、傍らに倒れていたヴィクトルの顔に、僅かな微笑みが浮かんだように見えた。
第十章: 光の余韻
「……ここは……?」
岸本が覚醒したのは、病院のベッドの上だった。
「岸本! 良かった…意識が戻ったのね」
傍らには、安堵の表情と共に涙を浮かべる真琴の姿があった。
「真琴……俺、無事だったのか。怪異は……?」
「完全に消滅したよ。岸本の言霊と、あの機械の相乗効果でね。ヴィクトルも助かったけど…今回の無茶ぶりには、私も呆れたわ」
「だよなぁ。俺もあんな研究に付き合わされたら、命が幾つあっても足りないよ」
岸本がやれやれ、とジェスチャーをし、思わず二人で吹き出す。
「…でも、本当におつかれ様。きっちりカッコいいところ見せてくれたわね、相棒!」
岸本の頭を優しく撫でながら、真琴は屈託ない笑みを浮かべてみせた。
数日後、一人岸本が病室にいると、ヴィクトルが訪れて来た。
強い疲労感は見られるが、その目はいつもの冷徹さを取り戻していた。
「…報告だ、岸本。今回の生体実験で、儂は二つの確信を得た。強大な怪異による呪詛の【捕食】、そして【呪詛の消滅と共に起こる心身の回復】だ。儂とお前が、極限まで邪気に蝕まれながらも生還した…これが何よりの証左だ」
ヴィクトルの瞳に、微かな輝きが帯びる。
「岸本、お前には感謝している。お前の言霊と、儂を連れ戻すという行動が、最良の結果を導いた。…以上だ」
そう言い残すと、ヴィクトルは病室を後にした。
ヴィクトルさん、あんたは常闇を倒し、奴の邪気に蝕まれたメンゲルさんの魂を救おうとしてるんだな…。
真琴もそうだ。
奴を倒す事を胸に秘め、今を懸命に生きている。
俺の力が、いつか彼らの助けになるのだろうか…。
答えの出ない問いを抱えたまま、岸本は窓の外に広がる空を見上げた。
もし俺の力が役に立つのなら、幾らでも力を貸そう。
そして皆と共に、常闇を倒す…!
――その一歩を踏み出すかのように、彼は静かに拳を握った。
科学、言霊、呪術――すべての力が結集し、物語は最高潮へと向かいます。
次回、第八話「常闇の胎動」では、神霊十将と【ノイズ】の正体が明かされます。
20時頃更新予定、お楽しみに!




