7話
むさ大の研究棟。
午後の光が、廊下の床に淡く広がっていた。
結菜は、白衣のポケットに診断書を入れていた。
「悪性リンパ腫」
その文字は、紙の上では静かだった。
でも、心の中では、粒子のように揺れていた。
湊斗は、結菜の歩き方が少しだけ遅くなったことに気づいていた。
実験室での手元が、ほんの少し震えていたことも。
「結菜、最近…疲れてる?」
湊斗が、誰もいない実験室で声をかけた。
結菜は、ノートを閉じた。
「うん。ちょっとね」
「検査、受けた?」
湊斗の声は、風よりも静かだった。
結菜は、ポケットから診断書を取り出した。
「…見せるね」
湊斗は、紙を見つめた。
何も言わなかった。
でも、その沈黙が、結菜には届いていた。
「大丈夫だよ。すぐに治療始めるし、まだ初期だから」
結菜が、微笑んだ。
湊斗は、頷いた。
その頷きは、たぶん肯定だった。
でも、心の中では、粒子が乱れていた。
---
碑文谷のアパート。
陽翔が、冷蔵庫のプリンを見ながら言った。
「結菜、最近来てないな」
「湊斗、なんか様子変だった」
大翔が、論文のページをめくりながら言う。
「…何かあったのかもな」
陽翔が、プリンを冷蔵庫に戻した。
---
奥沢のアパート。
結菜は、ノートの余白に言葉を綴っていた。
「診断。沈黙。湊斗の頷きは、たぶん共鳴だった。
でも、粒子は揺れている。まだ、観測されていない」
窓の外で、風がカーテンを揺らした。
その揺れが、未来の予兆だった。




