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6話
むさ大の屋上。
夜の研究棟は、静かだった。
4人は、誰にも言わずに屋上に集まっていた。
「星、見えるかな」
陽翔が、空を見上げた。
「この街でも、少しは」
大翔が、スマホの星図アプリを開いた。
湊斗は、何も言わずに双眼鏡を構えていた。
結菜は、風に髪を揺らしながら、湊斗の隣に立っていた。
「星って、観測されるまで、誰にも知られてないんだよね」
結菜が、ぽつりと言った。
「それ、粒子と同じだな」
湊斗が、双眼鏡を下ろした。
「でも、見つけた瞬間に、誰かの記憶になる」
結菜が、空を指さした。
「ほら、あれ。こと座のベガ」
湊斗が、指先を重ねた。
「夏の大三角だ」
陽翔が、アプリを見ながら言った。
「青春って、こういう夜のことかもな」
大翔が呟いた。
4人は、言葉を交わさずに空を見上げた。
風が、屋上の手すりを撫でていた。
その夜、誰にも見られない約束が、空に浮かんでいた。
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奥沢のアパート。
結菜は、ノートの余白に言葉を綴っていた。
「星を見上げる夜。誰にも見られない約束。湊斗の沈黙は、たぶん共有だった」
窓の外で、ベガが静かに瞬いていた。




