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3話
春が、少しずつ初夏に溶けていく。
むさ大のキャンパスには、風が多くなった。
風は、記憶を運ぶ。誰かの声や、あの日の匂いを。
湊斗は、図書館の窓際で本を読んでいた。
結菜は、隣で静かにノートを開いていた。
2人の間には、言葉よりも長い沈黙があった。
「この風、去年の文化祭の日に似てる」
結菜が、ふと呟いた。
湊斗は、ページをめくる手を止めた。
「…あの日、君が“科学って、綺麗だね”って言った」
「うん。あれは、たぶん嘘じゃなかった」
結菜は、窓の外を見つめた。
風が、ノートの端を揺らした。
その揺れが、2人の記憶を重ねていく。
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碑文谷のアパート。
陽翔が、洗濯物を干しながら空を見上げていた。
「湊斗、最近静かだな」
大翔が、コーヒーを淹れながら言う。
「結菜といると、あいつは“静か”が似合うんだよ」
陽翔が笑う。
「俺たちも、なんか落ち着いてきたな」
大翔が、カップを差し出す。
「青春って、騒ぐことじゃなくて、静かに残るものかもな」
陽翔が呟いた。
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奥沢のアパート。
結菜は、ノートの余白に言葉を綴っていた。
「風の記憶。沈黙の輪郭。湊斗の言葉は、たぶん肯定だった」
窓の外で、風が街路樹を揺らしていた。
その揺れが、今日という日を記憶に変えていく。




