2話
午後の研究棟。
窓から差し込む光が、実験台のガラスに反射していた。
干渉縞が、淡く揺れている。
湊斗は、干渉計の調整を終え、ノートに数式を書き込んでいた。
隣の席では、結菜が静かにスケッチを描いていた。
光の軌跡。波の重なり。
科学と美術の境界が、曖昧になる瞬間。
「干渉って、言葉にもあるよね」
結菜が、スケッチから目を離さずに言った。
「意味が重なること?」
湊斗が、ペンを止める。
「ううん。沈黙の中に、互いの思考が重なること」
結菜の声は、干渉縞よりも柔らかかった。
湊斗は、何も言わずに頷いた。
その沈黙が、確かに重なっていた。
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碑文谷のアパート。
陽翔が、冷蔵庫の中のプリンを見つめていた。
「これ、結菜が持ってきたやつだよな」
大翔が、論文の参考文献を整理しながら言う。
「湊斗にだけ渡してたけど、冷蔵庫に入ってるってことは…俺らにも食べていいってことか?」
陽翔が真剣な顔で言う。
「いや、たぶん“気づいた人だけ食べていい”っていう、結菜流のメッセージだ」
大翔が笑う。
「それ、科学じゃなくて心理戦だろ」
陽翔が肩をすくめる。
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奥沢のアパート。
結菜は、ノートの余白に言葉を綴っていた。
「沈黙の干渉。言葉のない会話。湊斗の頷きは、たぶん理解だった」
窓の外で、街灯が灯り始めた。
光が、静かに重なっていた。




