12話
むさ大・研究棟の屋上。
4人は、完成間近の映像をノートPCで確認していた。
スクリーンには、結菜の視点で描かれた世界が広がっていた。
風が静かに吹いていた。
星が、遠くで瞬いていた。
誰も言葉を発さなかった。
でも、その沈黙は、確かに共有されていた。
「これで、ほぼ完成だね」
結菜が、微笑んだ。
「うん。あとは、君のナレーションだけ」
湊斗が、画面を見つめながら言った。
「私の声、ちゃんと届くかな」
結菜の声は、風よりも細かった。
「届くよ。きっと、誰かの心に」
陽翔が、缶コーヒーを差し出した。
「科学って、こんなに優しかったっけ」
結菜が、缶を受け取りながら言った。
「優しさも、科学の一部だよ」
大翔が、静かに答えた。
その夜、4人は何も決めずに、ただ空を見上げていた。
それだけで、十分だった。
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翌朝。
湊斗は、研究室に結菜の姿がないことに気づいた。
スマホに、結菜の母親からの着信が入っていた。
「結菜が、今朝早く…容体が急変して、緊急入院しました」
その言葉は、湊斗の耳の奥で、何度も反響した。
手に持っていたUSBメモリが、床に落ちた。
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碑文谷のアパート。
陽翔と大翔は、湊斗の報せを聞いて、言葉を失った。
「…昨日、あんなに元気だったのに」
陽翔が呟いた。
「命って、こんなに急に揺れるのか」
大翔が、ホワイトボードの「Project: 命の輪郭」を見つめた。
「でも、俺たちが創ったものは、結菜の“今”を残してる」
湊斗が、USBメモリを握りしめた。
「だったら、届けよう。彼女に。今すぐ」
陽翔が立ち上がった。
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病室。
結菜は、酸素マスクをつけていた。
目を閉じていたが、眉間に少しだけ力が入っていた。
湊斗は、ノートPCをベッド脇に置いた。
スクリーンに、結菜の世界が映し出された。
風の音。光の粒。沈黙の重さ。
それらが、病室の静けさに溶けていった。
結菜のまぶたが、わずかに震えた。
その震えが、命の輪郭を描いていた。




