11話
むさ大・メディア工学研究室。
スクリーンには、結菜が描いた光のスケッチが映っていた。
その光は、どこか不安定で、でも確かに美しかった。
湊斗は、編集ソフトの前で手を止めていた。
「この光の揺れ、どこまで“現実”に近づけるべきか…」
彼の声は、誰にも聞こえないほど小さかった。
科学者としての自分は、正確さを求めた。
でも、今はそれだけでは足りなかった。
結菜の“感覚”を、どうすれば映像にできるのか。
その問いが、彼の中で揺れていた。
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陽翔は、音響設計の波形を見つめていた。
「鼓動の音を、どこまで“静か”にできるか」
彼は、結菜の心音を録音したファイルを何度も再生していた。
「これは、命の音だ」
そう思うたびに、胸が締めつけられた。
でも、涙は流さなかった。
代わりに、音を削り、重ね、包み込んだ。
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大翔は、ナレーション原稿の前でペンを止めていた。
「言葉が、軽くなってはいけない」
彼は、何度も書いては消した。
「命の重さを、言葉で伝えるなんて、おこがましいかもしれない」
でも、伝えなければ、結菜の“今”は誰にも届かない。
その葛藤が、彼の手を震わせた。
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奥沢のアパート。
結菜は、4人の作業ログを静かに読んでいた。
湊斗の迷い、陽翔の沈黙、大翔の言葉の重さ。
すべてが、彼女の胸に届いていた。
「みんな、私のために、こんなにも…」
結菜は、ノートの余白にそっと書いた。
「私は、彼らの“創る勇気”に支えられている。
だから、私は“生きる勇気”を返したい」
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翌日、研究室。
結菜が、そっと湊斗の肩に手を置いた。
「ねえ、湊斗。光の揺れは、揺れてていいと思う」
湊斗は、驚いたように彼女を見た。
「私の命も、揺れてるから。
でも、それでも綺麗だって、思ってほしいの」
湊斗は、ゆっくりと頷いた。
その頷きは、たぶん赦しだった。




