4話
零の誕生から2年後
零は歩くようになり、言葉も少しだけ覚えた。
東雲家の屋敷には、変わらぬ日常と、変わり始めた空気が静かに流れていた。
そんなある日のこと、最悪な出来事が起きてしまう…
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「零ちゃん遊ぼ!」
「うっうん、あそぶ」
てちてちと歩く。彼の姿に可愛いと思った由紀は抱きついた。
「ふぇ?」
「可愛い!!」
強く抱きしめる由紀。彼女の力はそこまで強くないため、零は暴れるは暴れるが大きく暴れることはなかった。
「ねえちゃ!はなれて!」
「離れたくない〜」
「……」
反論するのに疲れたのか無表情になる。まるで何かを理解したような顔だった。
零の表情が無であることを目撃したのは当主だった。2人に書かれて何をしているのかと様子を見に来ていたが零の表情が死んでいることに心配していた。
(ひょっ表情筋が死んでいるだと…!2歳児がしていい表情ではないが…冷静だな)
隠れながら聞いているととある会話が聞こえる。
その会話で由紀の人生は大きく変わる。最悪な方向に…
「そうそう、私!能力ゲットしたの!」
「!?」
「??のう、りょく?……おいしい?」
(食べ物ではない!)
内心ツッコミした当主は由紀が能力を得ていたことにどんな能力なのか聞く。
「食べ物じゃないよ!ほら見てよ!」
大きな氷が2人の目の前に現れた。しかも、数メートル級の巨大な氷。
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この世界には「能力」と呼ばれる力が存在する。
すべての人間が持つ力であり、生まれつき、あるいは突然それを発現させる。
由紀のように、幼少期に目覚める者もいれば、一生その力を持たない者もいるが20歳までには目覚める。
それは祝福か、それとも呪いか――その真価は、使い手の意思に委ねられていた。
彼女、東雲由紀が持っている能力は『氷海』
氷を具現化する能力、その規模は最大で国一つ分の氷を生成できる。現在の彼女の力では不可能であるが将来的に可能になる。
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(ふむ、巨大な氷を作る程度の能力か。今は弱いがこれからー!)
突然、頭が痛くなって頭を抱える当主。自身の体に何かが入ってくるようなとてつもない頭痛が起きた。
頭の奥に何か“異物”が這い込む感覚――それが、当主を一気に“別のもの”へと変えた
「なっ何が……」
倒れそうになるもなんとか立っていた。
しかし、"抑えきれなかった"
当主が最悪な人間になった原因の"厄災"に
「……」
突然無言になる。そして、歩いて2人のそばまで来た。
「ん?パパ?」
零が言うと由紀は後ろを向くと刃物を持った父親がそばにいた。
「え!?」
刃物を持った実の父親が自分を殺そうと腕を振り下ろして来た。
逃げようとしたが動けなかった。怖いからではなく、何かの力によって動けなかった。
「なっなんで……」
「才能のないゴミは処分する」
2人は動けなかった。このままではーーー
「!」
「なにやってんだぁぁぁ!!」
光の剣が飛んできて当主の腹に刺さる。
「ぐっはっ…きっ貴様…!」
腹を刺されてしまい、倒れそうになる当主。刺された腹から血が出ていた。
「何をやっている!お前は!」
怒って当主の前に現れたのは中学生くらいの男の子ー東雲彰。顔に青筋を立てて怒っていた。
当主?が今、何をしようとしていたのかを目撃した。自身の娘を殺そうとしていたのだ。あの6年前の惨劇のように…
「紫苑姉ちゃんを殺したように由紀も殺そうとしていたな!!」
「ふん、小僧。貴様、この剣を消せ!小娘を殺すのに邪魔だ」
当主?は怒りを露わにして彰を睨んでいた。
彰はその要求に拒否する。
「やるわけない!家族を殺そうとしていたお前に慈悲なんぞ与えん!」
「ほう?向かってくるのか?この私に…馬鹿な小僧だ。私に勝てると思っているのか?凶星たちより弱いお前が」
腹に刺さっている剣を抜こうとするが触ることができなかった。当主?はふざけるなよと心の中に思いながら彰を睨む。
「弱い?僕が弱いということを何も知らないお前が言うな!努力を身近に見たことのないお前が僕の努力を弱いなんて言うなよ!弱いと言うのは努力をしていない人間だ!簡単に弱いって言葉を使うな!!」
剣を複数個出して次々と当主の体に刺す。
「ぐっ……止まれ!」
当主?は能力を発動し、彰の動きを止めようとした。
だが、彼には当主の能力は通じなかった。
「なっ!?なぜ止まらないのだ…!」
動揺を隠しきれず、滝汗をかく当主?に彰は当主?に近いて蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた当主?は外に出てしまう。
「ぐっ…」
「さて、いい加減浄化させてもらおうか」
能力を発動して当主を乗っ取っている何者かの力を消そうとした時
「!」
彰の動きが止まる。
「動けない……!?」
体が動かないことに動揺する。ただ、能力は発動していた。
「くくっ……能力は発動しておるようだが残念だったな」
体に幾つも剣が刺さっているが無視するように動く。彰を無視して動けない2人を見て笑う。
「さあ、死ね。才能無き無能よ」
(嫌ー)
刃が振り下ろされた瞬間――
「やめろおおおおおっ!!」
彰が間一髪で飛び込み、由紀を抱えて回避する。しかし刃は由紀の肩口に深く食い込む。
「くっ……由紀!」
そのまま由紀は力を失って意識を失う。
意識をなくす直前、零に微笑みかけたように見えた。
「……よかった、無事で……」
ーーそれが、零が最後に見た姉の姿だった。
倒れた姉の手を握る零。
「……ねえちゃん、ねえちゃん……」
静かに零の目から、一筋の涙が落ちた。
そして、それを見ていた“何者か”が、微かに笑った。
どうも、ヨウです。
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