94
こんなときでもこんなことを考えてしまうのは、いつものぼくの悪い癖だった。でもそれは、とても自分らしい行為だとも思えた。
……眠ったら、もう一度、古代魚に会えるのかな?
……約束を果たせなかったけど、睡蓮さんは怒ったりしないかな?
……ぼくがいなくなったら、……お父さんや、お母さんはどう思うかな?
ぼくの思考は飛んでいた。
死んだら人は『無』になるのだ。そんなことは知っている。ぼくの読んだ本にそう書いてあったからだ。……無、無か。無っていったいなんだろう? なんにもないってことは、つまりどういうことなんだろう? (あらためて考えてみると、うまく想像することができなかった)
ぼくの考えている問いに答えはない。だけどそれを考えること自体に意味があるのだというそんな言葉をぼくは思い出した。確かなにかの本の中にそう書いてあったはずだ。ぼくはその言葉を屁理屈だと思っていた。でも実際に自分がこういう場面に直面すると、『そうなのかもしれないな』、と思えるのだから不思議だった。人間は自分勝手に世界を改変し解釈する。ふふ。命はなんて、実はとてもいい加減なものなのだろう、とぼくは思った。だからぼくは雪の降る真っ暗な空に向かってくすっと(最後に)笑ってやった。




