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……しかし、自然は(あるいは、現実の世界は)甘くはないようだ。落ち着いていた雪の勢いが増してきた。冷たい冬の風も強さを取り戻した。無音の世界にびゅー、という風の音が戻ってきた。それはまるで『やれるものならやってみろ!』と誰かに言われているような気さえした。
ぼくは『よし! いいよ、やってあげるよ!』という気持ちで歩き続けた。ずっとずっと頑張って歩き続けた。
……、それが、たとえ『必ず自分が敗れる勝負』(残念だけど、きっと、そうなのだろう)だとわかっていても、そうしようとぼくは思った。そうするんだと『自分で決めた』。……でも、そんなぼくの主観的な気持ちとは裏腹に、そしてぼくの客観的な予想の通りに、『そのとき』は、やってきた。ぼくの旅はとても短い時間にも、とても長い時間にも、その両方のように感じられた。もちろん正確な時間はわからない。だけどぼくは何度目かの抵抗ののちに、「あっ!」という声とともに、足を滑らせて雪の中に転倒した。地面に転がったぼくはそのとき初めて、世界に雪が積もり始めていることに気がついた。世界に雪が(少しずつ)積もり始めていることに気がつかないくらい、ぼくは集中し、また、疲労していた。そしてぼくは、冷たい。本当に雪が積もっている、ということを頭の中で一度言葉にしたのちに、……ついに、その場から一歩たりとも動くことができなくなった。……ぼくは最後の力を振り絞ってごろりと倒れている体の向きをうつ伏せから仰向けの状態に変えた。そして、そこから雪の降る真っ暗な空を見上げた。それは諦めずに『最後の最後まで、星を探すため』の行為だった。
……そうか。ここがぼくのたどり着いた場所。ぼくはこの場所で、長い眠りの中に落ちていくんだ。……空に降る雪をみながらぼくはそう思った。




