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ぼくは気分転換に窓の外に目を向けた。窓の外には雪が降っていた。どうやらこの世界では冬はまだ終わっていないらしい。先ほど廊下で考えたぼくの予想はもしかしたら当たっているのかもしれなかった。ぼくはそれを確認すると丸い瞳を細めてから、深いため息をついて、それからぼくは再び死体のような風の寝顔に視線を戻した。
……ふう。ふうか。この女の子はふうという名前なのか。ぼくは風という言葉を頭の中で何回か声に出して繰り返した。
それからぼくは風がちゃんと生きているのか確かめてみるために風の頬をぴしぴしと前足で叩いてみた。するとかすかにだけど、風はきちんと反応を示した。風はちゃんと生きていた。死体のように見えるだけで、本当の死体ではなかったのだ。
ぼくはそれから死体のような風の寝顔を眺めて、それに飽きると窓の外に降る雪を見る、という作業を始めた。すると初めはろうそくのようだと思った風の白い顔は、窓の外に降る雪と交互に眺めていたせいか、だんだんとろうそくというよりは雪に似ているように思えてきた。外に降る雪と風の白い顔がぼくの意識の中で重なり合って、それは次第にぼくの中で溶け出した。雪はいつまでも窓の外で降り続いていた。そして風も、そのまま一度も目覚めることなく、その夜の間は、ずっと眠り続けたままだった。