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 しばらくの沈黙のあとで、「そっちへ行っても構いませんか?」と睡蓮さんが言った。そっちとはどうやらぼくの隣の席のことを指しているようだった。ぼくは睡蓮さんに「はい」と返事をした。睡蓮さんは音を立てず静かに席から立ち上がると、にっこりと笑いながらぼくの隣の赤い生地の席に移動した。そうすると古風な客車の座席は決して狭い座席ではなかったけれど、ぼくと睡蓮さんの体はぺったりとくっついて離れなくなった。睡蓮さんからはとてもいい匂いがした。睡蓮さんはぼくの膝の上にある、ぎゅっと硬く閉ざされたぼくの握りこぶしの手の上にそっと自分の手のひらを置いた。それはとても冷たい手だった。その手に触れて、魔法のように僕の手のひらは開いていった。ぼくの頭のすぐ横には睡蓮さんの大きくて柔らかい胸があった。ぼくはそのことがとても恥ずかしかった。なんとか睡蓮さんの大きくて柔らかい胸から顔を離そうと努力した。しかし睡蓮さんはぼくの思いとは逆に、少し離れようとしているぼくの体を自分の体のほうにぎゅっと引き寄せた。だから結局、ぼくの顔は睡蓮さんの大きくて柔らかい胸に密着した。ぼくは恥ずかしさでまた顔を赤くした。睡蓮さんはなにも言わなかった。睡蓮さんの大きくて柔らかい胸はその手とは違って、冷たいということはなく、……とても温かかった。(なんだか、とても安心した)

 ぼくの胸はどきどきしていた。緊張で心も体も強張っていた。

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