66 冬の音色
冬の音色
それからどれくらいの時間が経過したのだろう?
それは一瞬とも、とても、とても長い時間のようにも思えた。そもそもの話、もしかしたらこの暗い海の底では、もう時間なんてものは存在すらしていなくて、なんの意味も持たないのかもしれなかった。
流していた涙がぼくの頬の上で乾き、赤く充血しているであろうぼくの目が再び空に向けられたとき、そこに白色の彗星の姿はなくなっていた。もちろん古代魚も、空を泳ぐ魚の仲間たちも、その姿を消していた。ぼくは本当にこの真っ暗闇の中でひとりぼっちになってしまった。ぼくは闇の中で古代魚との約束を思い出していた。古代魚はぼくを迎えに一人の女性がやってくると話をしていた。ぼくは古代魚のことを信頼していたから、(だって、友達だから)その女性があらわれるのを白いベンチの上に座りながらじっと待ち続けていた。
やがて、遠くの闇にぽつんと一つの明かりが見え始めた。
ぼくの目はその光に釘付けになった。
それはとても綺麗な光だった。それはだんだんと小さな光から中くらいの光、そして大きな光へとその大きさを変えていった。ぼくはその光の正体が初めはなにかわからなかった。……、でも次第に、どこからか、かんかん、かんかん。かんかん、かんかん。という音が聞こえてきた。ぼくはその音を聞いてこの光の正体が線路のない闇の中を滑走する『列車』だということに気がついた。




