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沈黙が支配すると、暗闇がその力を増してきた。真っ暗闇の世界はぼくの心を不安にさせた。だけど、そばに古代魚がいてくれたから、ぼくは自分の足を止めることなく歩き続けることができた。ぼくは古代魚と一緒に移動している間ずっと、空に浮かぶ白色の彗星の姿に視線を向けていた。ぼくたちはそれなりの距離を移動したと思うけど、彗星との距離は一向に縮まらなかった。
空に浮かぶ彗星は、とても美しかった。
「見て、あそこにベンチがあるよ」と古代魚が言った。久しぶりの古代魚の声を聞いて、ぼくは彗星を見ることをやめた。下を見ると、そこには確かにベンチが存在していた。「あそこで少し休憩していこうか」と古代魚が言った。ぼくは古代魚に「うん」と返事をした。真っ暗な世界の中に置いてある小さな白いベンチの端っこにぼくは腰を下ろした。そこからぼくは古代魚と一緒に彗星を見上げた。それはとても幻想的な風景だった。
「ぼくもあそこに行きたいな」とぼくは言った。「それは無理だよ」と古代魚は言った。「どうして?」とぼくは聞いた。「だって君は人間だもの」と古代魚は言った。確かにぼくは人間の姿をしていた。ぼくの視界に入るぼくの腕と足と胴体は確かに見知った形をしたぼく自身のものだった。




