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「あれは、なに?」とぼくは言った。
「あれは彗星だよ。白色の彗星さ」と古代魚は言った。
……白色の彗星。
ぼくはその言葉を頭の中で繰り返した。その奇妙な言葉は今、初めて聞く言葉のはずなのに、なぜかどこかで聞いたことのある言葉のような、そんな不思議な印象を持って、ぼくの頭の中に吸収された。
「ぼくたちはあそこに行くの?」とぼくは古代魚に聞いた。「いや、違う」と古代魚は言った。「きみは白色の彗星にはいかない。あの彗星についていくのはぼく一人だけさ」と言って古代魚は笑った。「きみ、一人だけ?」とぼくは言った。「そう、ぼく一人だけ」と古代魚は答えた。
それから古代魚は彗星の飛んでいる方向に向かってゆっくりと移動を始めた。だからぼくも古代魚の横を歩くようにして移動を始めた。古代魚は見えない小川の中を優雅に泳ぎながら、その顔だけを水面の上に出していた。それはきっとぼくと会話をするためだろうとぼくは思った。「ねえ、古代魚」とぼくは言った。「なんだい?」と古代魚は言った。




