46 ……なんだか、まだちょっと眠たいね。
……なんだか、まだちょっと眠たいね。
「……くしゅん!」と、その闇の中で風がくしゃみをした。大きなくしゃみだ。ぼくはその音につられて上を向いてみたのだけど、ぼくの目は星の光に慣れてしまっていたようで、その闇の中で風の顔をはっきりと見ることはできなかった。
その病室までの帰り道、風はずっと寒そうに体を震わせていた。休憩所でじっとしていたことがいけなかったのか、どうやら風は今日も随分と体を冷やしてしまったようだった。ぼくが「にゃー」と小さな声で鳴いても、そのときから風はにっこりと笑うだけで、言葉を話したりはしなかった。
風はいつもよりもさらにゆっくりとした足取りで病室まで戻っていった。病室の中に入ると、風の顔が真っ赤に火照っていることにぼくは気がついた。もともと真っ白な顔をしているせいか、赤みがかった風の顔はいつもよりも正気に満ちているように見えた。実際に今の風の顔はろうそくでも雪でもなくて、きちんとした、『生きている人間の顔』に見えた。
風は着ていた小さな子供用の真っ白なコートと真っ白な厚手のマフラーと白い手袋を脱ぐと、それらを壁の出っ張りにかけてから、とても小さな声で、「おやすみ、猫ちゃん」と言って、いつものようにベットの中に潜り込んで眠ってしまった。ぼくは少しだけ間をおいてから、病室の丸椅子とテーブルを利用して、風のベットに飛び乗ると、それから風の小さな胸の上に移動して、いつものように、そこに座った。




