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「猫ちゃん。あの星はね、『きらきら星』っていうんだよ」と風が言った。……『きらきら星』、とぼくは心の中でその言葉を繰り返した。
「お母さんが教えてくれたの。このあたりではね、たまにね、たった一つの星だけが夜空に輝く夜があるんだって。その夜に輝く星のことをね、きらきら星っていうんだよ」と風は言った。……夜空にたった一つだけ輝くきらきら星、とぼくは心の中で、その言葉をさっきと同じように繰り返した。それはとても不思議な星だった。それは……、とても、……とても綺麗な星だった。
「えっとね、きらきら星はね。なかなか見られないんだよ。だからね、それは『幸運の星』って呼ばれているの。わたしね、まだお母さんがこっちにいてくれたころはね、二人でどっちが先にきらきら星を見つけられるか競争してたの。だからわたしね、夜になるとね、いっつもきらきら星を探しにね、病室を抜け出して、こうしてお散歩をしてたんだ。そうやってきらきら星を見つけてね、お星様にお願いするの。どうかわたしを、『お母さんとお父さんのところに連れて行ってください』って。それが私のたった一つのお願いごとなんだ」風のはそう言ってから、にっこりと笑うと、それから、そっとぼくの頭を右手で優しく撫でてくれた。
「だけど今日は猫ちゃんに譲ってあげるね。わたしはお願いごとをしないから、今日は猫ちゃんがお願いごとをしていいよ」と風は言った。




