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 ぼくは視線を休憩所の前方にある下と上に続く階段に向けた。風はこの階段を『いつも上に行く』と言っていた。ぼくはとくに考えがあったわけではないけれど、昨日、『自然と下に行く』ことを選んだ。

 だからぼくは今日は上に行ってみてもいいかな? と心の片隅で少しだけ思っていた。その思いが実現しなかったことが少し残念だったけど、それは明日、そうすればいいとぼくは思った。

「猫ちゃん。見て! 見て!」と興奮した様子で、風が言った。ぼくが風のほうを振り返ると、風の指は休憩所の背後にある大きな窓ガラスに向けられていた。

 正確に表現すると、その指は窓ガラスの向こう側に『光る、一つの星』に向けられていた。……ぼくは、その光を見て驚いた。

 ……闇の中に、確かに光があった。……雪は、いつの間にか止んでいた。空を覆っていた雲は、いつの間にかなくなっていたのだ。闇の中で光る僕の緑色の瞳は二つとも、その驚きで大きく見開いていた。風はぼくの驚きを感じ取り嬉しそうにはにかむと、「よいしょっと」といって丸椅子から立ち上がり、それからゆっくりと歩いて、ぼくを窓ガラスのすぐ近くまで連れて行ってくれた。その移動の間も、ぼくの緑色の二つの瞳は一瞬もその光から離れることはなかった。

「綺麗だね、猫ちゃん」と風は言った。その光は本当に綺麗だった。

 風はコート越しにぼくの体を下から軽く持ち上げてくれて、ぼくの瞳に星の光がよく見えるようにしてくれた。窓ガラスは透明で、その先にある夜空がよく見えた。不思議なことに、星は、あの輝く星の他には一つも出ていなかった。周囲を見渡してみると星だけではなく月もなかった。深い夜の闇の中にあの星だけがとても綺麗に輝きを放っていた。

 ……夜は、あの星のためだけに存在していた。

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