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風は昨日と同じように慎重に開いた出入り口の扉から暗い廊下にその小さな顔だけを出して、きょろきょろとあたりを見渡して誰もいないことの確認をした。それが終わると冷たい廊下に出て、両手を使って慎重に病室の扉を閉めた。相変わらず、がちゃという音はしたが、その音が消えてしまうと、闇の中に残ったものは外に吹く風の音だけになった。廊下は冷たい空気で満たされていた。ぼくはいつの間にか、ぼくの指定席となった風の小さな子供用の真っ白なコートの中にいて、その胸元のあたりから顔だけを外に出していた。外の冷たい空気にぼくはぶるっとその体を震わせた。すると風はなにも言わずにコートの上からぼくの体を一度、両手でぎゅっと抱きしめてくれた。
ぼくはその風の行動がとても嬉しかったのだけど、そのあとで「猫ちゃんはあったかいね」と風が言ったので、ぼくを抱きしめることは風にとっても意味のある行為だったようだ。
暗い夜の中を病院の廊下の壁に手をつきながら、風はゆっくりとした足取りで進んでいった。病院の廊下は相変わらず完全に闇に閉ざされていた。そしてその廊下は、やはりとても長く、まるで永遠に闇の中に続いているかのように僕は感じた。
ぎい……、ぎい……、という風の足音は、……びゅー、という風の音にすぐにかき消されていった。




