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なのに次の瞬間、突然、がらっという音がして眩しい光が暗闇の世界の中に差し込んできた。ぼくはその光に驚いて反射的に体をくねらせながら跳ね飛ぶようにして後方に移動する。できるだけ光から逃れるように闇の中へと移動する。それは我ながら、どこにそんな力が残っていたのかというくらいに機敏な反応だった。
「誰かそこにいるの?」と可愛らしい声がした。
光の中になにかがいた。大きななにか。それは人の形をしていた。そこに人間が一人いる。人間はなにかを探していた。その人間が探しているのは……、猫になったぼくだった。
ぼくはその人間に見つからないようにさらに深い闇の奥へ奥へと移動する。しかし、死を迎える直前だったぼくの体にはいつものように軽快な動きで人間から逃れることができるような力はすでに残されていなかった。どうやらさっきの反射的な力が、ぼくに残されていた最後のエネルギーだったようだ。ふらついているぼくの後ろ足は冷たい廊下の上で空回りをしたようで、ぼくは不格好な格好でその場にばたっと音を立てながら倒れこんでしまった。
「にゃー」とぼくの声が出る。
「猫? 猫がいるの?」
その声に人間が反応した。
「あ、そこに隠れているのね。さあ、こっちにおいで。そこは寒いでしょ?」と人間がぼくに手を伸ばす。ぼくはその手から逃れようとした。だけどそれができない。もうぼくの足はまったく動かなくなっていた。だからぼくは精一杯威嚇する。牙を出し、目を吊り上げて威嚇する。ぼくはお前の敵だと人間にわからせようとする。だけど人間はひるまない。人間はゆっくりとぼくのそばに近寄ってきて、そのままそっとぼくをいたわるような優しい手つきで、ぼくの体を持ち上げた。噛み付いてやろうかと思ったが、顎がまったく動かない。ぼくの体はそのまま人間の膝の上に移動する。それからぼくはその人間の胸にぎゅっと抱かれた。ぼくの冷たさが人間に、人間の温かさがぼくに、まるでお互いの世界をちょっとだけ交換するように伝わっていく。やがて人間の頬がぼくの横顔に押し付けられた。
「……冷たい。体、温めないといけないね」
そう言って、人間は笑った。