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「おやすみなさい。猫ちゃん」
そう言うと風はいつものようにすぐに眠りについてしまった。
一人ぼっちになってしまったぼくはテーブルから風の眠るベットの上に飛び移ると、いつものように風の小さな胸の上に移動した。そしてそこから風の顔をじっと見つめた。風は相変わらず死体のような顔をしていた。そして窓の外では相変わらず雪がずっと降り続いていた。
いつもと変わらない風景がそこにはあった。雪は弱くはなったけど、結局、雨には変わらなかった。窓の外には枯れた柳の木があった。それをじっと見ていると、まるでぼくが枯れた柳の木を見ているのではなく、枯れた柳の木にぼくがじっと見られているような、そんな不気味な気持ちになった。
ぼくは視線を瞳の病室の中に戻した。
ぼくは瞳を閉じてみた。
そして、自分が眠ることができるのか、試してみることにした。ぼくはとても長い間そうしていた。かたかたとなる窓の音。ごーっという燃えるストーブの中の炎の音。そんな音を聞きながら暗闇の中でじっとしていた。……、しかし、ぼくは眠ることができなかった。ぼくの中からは眠気というものがやっぱり消えていた。ぼくは眠りたいなんてこれっぽっちも思わなかった。
瞳を開けて、柱時計を確認すると、時計の針は一の数字の辺りを指していた。病室を出てから、約一時間が経過していた。風が目覚めるまでは、あと七時間もある。ぼくは昨日と同じように、このまま風の小さな胸の上に居座って、風の死体のような寝顔と窓の外に降る雪を交互に眺めながら、時間が経過するのを待つことにした。猫になっても、夢の中でも、人間のときと同じように、一人の夜は長く、……、そしてとても孤独だった。




