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自分の病室の前までたどり着いたところで、「くしゅん!!」と風がくしゃみをした。それから風は大きく鼻をすすった。
そのくしゃみで風の存在がばれたかと思ったが、どうやらあの看護婦さんはぼくを追いかけることを諦めたらしく、光は闇の中を下に向かって移動していて、そのころには周囲に人の気配はなくなっていた。
ぼくは風に「にゃー」と鳴いて、大丈夫かと尋ねた。
「心配してくれているの? ありがとう、猫ちゃん。でも大丈夫だよ」と笑いながら風が言った。
風は笑顔でごまかしているけど、その体はかすかに震えていた。どうやら体を冷やしてしまったようだ。習慣になっている行動だとはいえ、あの寒さの中を出歩いたのだから、無理もないことだとぼくは思った。普段の風がどんな風に真夜中のお散歩をしているか、ぼくにはわからないけれど、どうやら今日の風はいつもよりも少し無理をしてしまったようだ。
「それよりもさっきの猫ちゃんはすごかったね。おかげで助かっちゃった。ありがとうね、猫ちゃん」と言って風はぼくの頭を撫でると、それからそっと病室の扉を開けて、暖かい部屋の中に移動した。
ぼくは風の小さな子供用の真っ白なコートの中から飛び出してテーブルの上に乗り、風は真っ白なコートと厚手の真っ白なマフラーと白い手袋をもぞもぞと脱いでそれらを壁の出っ張りに引っ掛けた。それから真っ白なパジャマ姿に戻った風はストーブの炎を少し強めにして、すぐにベットの上で毛布にくるまって横になった。




