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「私、先輩に憧れているんです。戦争が始まる前から先輩の単独飛行機による長距離大陸横断飛行の記事を読んで飛行機乗りなろうって決めたんです。本当にすごく憧れてます。実は隠しているつもりなんですけど、今もずっと緊張で手が震えてます」と雪風は言った。
そのことにはハラは気がついていた。自分のことに憧れて飛行機乗りなりました、と軍の中で声をかけられたことはいまが初めてではなかった。
「どうもありがとう。すごく嬉しい」とハラは言った。(雪風はその白い雪みたいな顔を真っ赤にした)
「あのとき先輩が乗っていた、鮮やから黄色の飛行機。私ずっと大好きです。本当は自分の飛行機も黄色にしたいんですけど、戦闘中に黄色は目立ちすぎるし、それにあの飛行機はやっぱり先輩の飛行機だから、そうしたいなって思っていただけで、自分の飛行機を黄色にすることはできません」照れながら雪風は言った。
「先輩。あの飛行機は今はどこにあるんですか?」雪風は言う。
「どこにもないよ。スクラップにしちゃった」とハラは言った。
黄色はね。平和の色なんだよ。せっかくさ大陸横断するならさ、いつものハラの大好きな黄色い飛行機でさ、空を飛ぼうよ。世界を平和の色にしようよ。ハラが両国の平和の架け橋になるんだよ。と嬉しそうに笑ってメルが言った。
ハラは窓の外を見る。雪は戦場を包み込む。いつも以上に注意をしなければいけない。