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「ただ弱点はある。隠しているだけで、必ずどこかにある。完璧な飛行機乗りなんていないからな。それを『どちらが早く見つけられるか?』 それが生き残るためのポイントだ」ハラの肩を叩きながら整備長は言った。
そんなの身に染みてわかってる。とハラは思った。
ハラは自分の弱点を知っている。飛行機乗りとしての癖や自分の乗っている飛行機の弱点もわかってる。だからもし自分が自分と戦うことになればきっと勝つことができるとハラは思う。(向こうもそう思っていると思うけど)
普通の飛行機乗りであれば弱点なんてわからなくても、技量と経験で押し切ることができる。
戦略や天候的に不利な条件でも戦えるし、最悪の場合でも戦場から生きて脱出することはできる。(自信はある)
でも相手がエースとなると別だ。
ハラは過去に一人向こう側のエースを落としたことがある。そのことでハラは英雄になり、エースになった。
エースの名前は『妖精』と言った。
今思い返してみると妖精を落とせたのは本当に運が良かった。
ハラは戦場に、『人を殺すこと』に、なれてはいなかった。妖精を落とせたのは当時の仲間である第八飛行機団の援護のおかげだった。
その戦いで第八飛行機団のみんなは全員が死んでしまった。妖精に落とされたのだ。妖精はハラが初めて戦争で落としたパイロットだった。その日が、ハラの戦場での初飛行の日だったのだ。(そのときが初めてハラが戦場とはいえ『人を撃った、人の命を奪った』経験だった)