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幻の種族である白い月兎にはとても『高い価値』があった。……、とても、とても高い価値だ。(ある階級の人たちにとっては、また手が届くのだとしたらあらゆる人たちにとっても、とても特別な価値があったのだ)
白い月兎が幻の種族として呼ばれているのは、あの高い空に浮かんでいる白い月に住んでいる唯一の種族である、と言うことと、それからもう一つ、その寿命が永遠であること、つまり『不老不死の種族』であることが理由だった。
……、本当かどうかはわからないけど、白い月兎は不老不死の種族であるらしい。(今、ぼくの目の前でぼんやりとした顔をして、椅子の上で足をぶらぶらとさせている、ファニーファニーも不老不死、つまり老いることもなく永遠に死ぬことはない、と言うことだ)
怪我や病気では、亡くなることはあるけれど、(病気にもとても強いらしい)自然な状態であれば、いつまでも老いることなく若いままで、自然に死ぬことはないのだと言う。
そして、大切なことは、その不老不死の種族である白い月兎の体からは、『人間を不老不死にできる、本物の不老不死の薬を調合することができる』と噂されていたことだった。
……、不老不死の伝説。
それが幻の種族である、白い月兎をいつの時代も、人間たちが追い求める最大の理由だった。
そのために白い月兎はたくさんの人間たちに求められて、追われて、やがて、見つかってしまって、そして人間に捕まってしまった不幸な白い月兎はそのまま『表の歴史』には残らない、『裏の歴史』の中の暗い闇の中に消えてしまって、(だからそれから白い月兎がどうなってしまったのか、本当に不老不死の薬が調合されたのか? その不老不死の薬を飲んで、『本当に不老不死になった人間がいるのか』。それは誰にもわからなかった。だからぼくにも古い文献に書かれていること以外のことは、どれくらいのことが本当のことなのか、あるいは嘘なのか、それが、よくわからなかった)よくわからなくなって、わかっていることは、やがて、白い月兎は人間の前に姿を見せることは無くなって、幻の種族になってしまったと言うことだけだった。
白い月兎は、(白い月にみんな帰ってしまったのかもしれない)物語と古い文献の中だけの存在になった。
ぼくは(遊び飽きてしまったのか)古い民族の仮面を太ももの上に乗せて、じっとぼくを見ているファニーファニーを見ながら、そんなことを思った。