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その日から、ぼくは体調を崩してしまって、寝込むようになった。(なさけないことに、まったく動けなくなってしまった)
ごほごほと咳が止まらなくて、熱もあった。汗もかいたし、意識もぼんやりとしていた。そんなとき、ぼくはこのまま死んでしまうのだと思った。
ぼくは真っ暗な闇の中で、流行り病の伝染病で亡くなったたくさんの人たちのことを思い、山になって焼かれている死体のことを思い出した。
ぼくはだんだんと小さくなって、なにも考えることができなくなって、やがて消えてしまうのだと思った。
……、でも、ぼくは生きていた。
二、三日寝ていると、体調も良くなった。病気にはなったけど、流行り病の伝染病になったわけではなかった。
ぼくが寝込んでいる間、ずっとファニーファニーはぼくの看病をしてくれた。(食べものは買い置きがあったので、それをぼくに、あーん、と言いながら食べさせてくれた)
「大丈夫だよ。きっと良くなるよ」と小さく笑って、ぼくにそう何度もいってくれた。……、ぼくの手を、優しく触ってくれながら。
「よしよし。いい子だね」と頭を撫でながら、深い眠りにつく前に、ファニーファニーはぼくに言った。(ぼくは真っ暗な闇の中に落ちていった)
ある夜、なにかの声が聞こえて、目を覚ますと、小さな声で、ファニーファニーがなにか不思議な歌を歌っていた。
それは星の見える夜の歌だった。
なんだかとっても不思議な歌だった。(あとでそれは白い月兎の子守唄なのだとファニーファニーは教えてくれた)
でも、とても優しくて、なんだか、初めて聞く不思議な感じのする歌のはずなのに、どこかなつかしい感じがした。
ぼくはその歌を、ただ、じっと明るい星空の輝いている夜の中で聞いていた。
(ファニーファニーはぼくが起きていて、歌を聞いていたことに気がつくと、顔を真っ赤にして、頬を膨らませて、ぼくを見て、ちょっと怒った顔をした)
「煙がずっと空に向かってのぼっていたんだ。死体を焼いている煙が、もくもくとずっと空に向かって、のぼっていた」とファニーファニーは言った。
「そんな風景を、ずっとここから見ていたんだ。窓越しにね。大丈夫。安心して。言われた通りにちゃんと外からはあまり見られないように、気を付けながら、見ていたから」とぼくをみて笑ってファニーファニーは言った。
「もし君が流行り病の伝染病にかかっていたとしたら、あるいは、そうじゃなかったとしても、なにかの病気でこのままこの部屋のベットの中で死んでしまったとしたら、君もあのたくさんの死体の中の一つの死体となって、焼かれて、煙になって、そらにのぼっていくのかもしれないって、そんなことを思いながら、ずっと煙を見ていたんだよ」と窓際に移動させた椅子に座りながら、ベットに横になっているぼくをみてファニーファニーは言った。
時間はお昼ごろで、ファニーファニーは、ほぁーと大きなあくびをした。