264 声を聞くんだよ。耳をすませてね。
声を聞くんだよ。耳をすませてね。
なんでぼくは生きているのだろう?
どうしてぼくは生まれてきたんだろう?
そんなことをぼくは真っ暗な夜の中で考えていた。……、いつものように。答えなんてないことは、もうわかっているはずなのに。
……、どうして人間は、死んでしまうのだろう?
命は、死ぬために生まれてくるのだろうか?
死ぬのはとても怖かった。
死にたくないと思った。
生きていたいと思った。
生きていても、いいことなんて、なにもないことも、わかっているはずなのに。
『そんなことないよ。君は幸せになれるよ』。
そんな優しい声が聞こえる。
ぼくはずっと丸くなって膝の間にうずめていた顔を上げて、声の聞こえたほうに目を向ける。
すると、そこにはファニーファニーがいた。
ファニーファニーが笑ってる。
真っ暗な夜の中で。
そこだけが明るく光っている。
まるで白い月のように。
そんな白い月みたいなファニーファニーが、ゆっくりと歩いてやってきて、ぼくの体にそっと触れる。
その瞬間、真っ暗な夜はあっという間に、光に包まれるようにしてなくなって、明るくて眩しい太陽の輝いている美しい世界と、ぼくと、そしてファニーファニーだけが残っていた。
世界に吹いている気持ちのいい風の中で、ファニーファニーの真っ白で綺麗な三つ編みのツインテールの髪と長い兎の耳が揺れていた。
疲れていたのか、ぼくは寝巻きに着替えをしたあとで、いつのまにかベットの中で、ぐっすりと眠ってしまっていた。
眩しい朝の光の中で目を覚ますと、もうベットに(あんまりお金がないから宿は一人部屋だった)ファニーファニーの姿は無くなっていた。
ファニーファニーが眠っていたところ。
そこはからっぽだった。
ぼくは一瞬、今までのファニーファニーと出会ってからのすべてのことが夢だったのかもしれないと思った。
最初からファニーファニーはどこにもいなくて、ぼくが夢を見ていただけなのかもしれないと思った。でもすぐに部屋の奥に続いている洗面所の扉が開いて、「おはよう」と歯磨きをしているファニーファニーが寝ぼけた顔を出して、ぼくに言った。