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「ただいま」と言って宿の部屋に帰ってくると、「やあ、おかえり」と(自然と機嫌がなおって、いつも通りに戻っていた)ファニーファニーが言った。
ファニーファニーは変装用のローブを脱いでいて、初めて会ったときのような白い月の衣を着ていた。もちろん、その顔も兎の耳も隠したりしていなかった。
「お土産は?」とわくわくしながらファニーファニーは言う。
ぼくはお留守番をしているファニーファニーのためにお土産を買ってくることを約束していた。
ぼくが買ってきたお土産はファニーファニーが市場で欲しがっていたいろいろなものの中から選んだ古代の民族のお面だった。
へんてこな模様の描かれている、丸い形に目と口の代わりに、丸い穴が三つ開いているだけの(それなのになんだか不思議と興味を惹かれてしまう)お面だった。
市場のときはだめだと言ったのだけど、お面であれば顔を隠せるので、まったく役に立たないことはないかな? と思って買ってきた。
その古代の民族のお面を見て、ファニーファニーはとっても、とっても喜んでくれた。(はしゃぎすぎて、宿の女将さんから扉をノックされて怒られた。まあ、でもよかった)
ファニーファニーはそのあとずっと部屋の中でお面をつけていた。
ファニーファニーの機嫌がなおったことは良かったけど、いいことばかりではなかった。
ギルドの掲示板の白い月兎の手配書は、その依頼の数も金額も上がっていた。どうやら『とても確かな白い月兎の目撃証言』があるようだった。(情報源が誰なのかはわからなかったけど。その誰かはその情報だけでもかなりの金額の報酬をもらっているはずだった)
ぼくは、はぁー。まいったな。と思いながら、お面をつけているファニーファニーのいるベットの隣に座った。
「今日は本当にどうもありがとう。とっても楽しかったよ」とファニーファニーはお面をとると、ぼくに優しく微笑みながら、その小柄な体をくっつけるようにして言った。