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 大きな街。大きな市場。すぐそこには海があって、港もあり、たくさんの貿易船がある。本当にたくさんの人たちがいる。

 いろんな国の人たち。

 大人に子供に、男の人に女の人。

 ここは大陸でも貿易の中心となっている街だから、本当に人々の姿がいろいろだった。(まるで世界を小さく、ぎゅっと集めたみたいだった)

 ぼくも大きな街は久しぶりだったから、それなりに歩いているだけでも楽しかった。

 ファニーファニーはずっとぼくのそばで、とっても楽しそうにしていた。(フードの中の兎の耳がぴくぴくと動いていた)

「市場って、はじめて。それにこんなに人間がたくさんいるところもはじめてだよ」とぼくをみて、フードの中の顔を少しだけ出すようにして、にっこりと笑ってから、ファニーファニーは言った。

 そんな満足そうなファニーファニーをみて、ぼくも「よかった」と言ってにっこりと笑った。

「ねえ、あれはなにをしているの?」と言って、ファニーファニーは『あるところ』を見て、くいくいとぼくの上着をひっぱって、指さした。

 ぼくたちは大通りの市場を離れて、港に向かっている途中だった。(ファニーファニーが海を見たいと言ったからだった)

 一応、(大通りの市場で買い物をしていて、今さらではあるけど)裏道を通って、目立たないようにして港に向かった。

「あれは、死体を焼いているんだよ。たくさんの死体を集めて、いっぺんに焼いている」ともくもくと空にのぼっていく、たくさんの煙を見ながら、ぼくは言った。

 ファニーファニーが指をさしたところは死体を火葬するところだった。ただ普通の火葬ではない。もう何年も流行りつづけている恐ろしい伝染病で亡くなったたくさんの引き取り手のない死体を集めて燃やして、そして残った骨を土の中に埋めているところだった。

「死体を? どうして?」とファニーファニーは言う。

 ぼくはファニーファニーの指をそっと下げさせてから、(そのあとで、簡単に指さしをしてはいけないと言った)「恐ろしい伝染病で亡くなる人をこれ以上、増やさないためだよ」とぼくは言った。

 ファニーファニーは「少し見ていきたい」とぼくに言ったので、ぼくたちはそこで一度、立ち止まった。

 伝染病がうつることがあるため、死体を火葬しているところの近くに立ち寄ることは街の法律で禁止されていたので、ぼくたちは少し遠くて街の高い住宅のところに移動をして、そこから火葬を眺めた。

 ファニーファニーは座るのにちょうどいい石段を見つけると、そこにちょこんとすわって、市場で買った(だだをこねるから、断りきれなかった)焼きたてのパンを一口食べた。

 ぼくも、同じように石段の横に座って、同じように焼きたてのパンをかじった。そんな風にして、ぼくたちはしばらくの間、ぼんやりとたくさんの煙が青色の空の中にのぼっていく風景をただじっと、パンを食べながら、ずっと黙って見つめていた。

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