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「声を聞きたいんだよ。いろんな人間たちの声をね」と深く濃い森の中でファニーファニーは言った。
「いろんな人間たちの声?」とファニーファニーの兎の耳をじっと見て、ぼくは言った。
「うん。そうだよ」とぴょこぴょこと兎の耳を動かしてファニーファニーは言った。
「そのために大きな街に行きたいんだね」とぼくは言った。
「うん。案内をしてもらえないかな? 『ぼく』一人だけだときっとまたこの森の中みたいに迷子になっちゃうと思うんだ」と大きな木に背中をつけるようにして座っているぼくの隣に、よいしょと、と言って座ってファニーファニーは言った。
ぼくはファニーファニーの動きを目で追いながら、また兎の耳を見つめた。
「あ、それからね。兎の耳をじっと見るのは良くないことだから、今度からはやめてね。恥ずかしいから」とファニーファニーはぼくのほうを見て、にやにやしながらそう言った。
「え? ……、あ、ごめんなさい!」と言って、ぼくは顔を赤くして、ぱっと兎の耳を見ることをやめる。
するとファニーファニーはくすくすと上品な仕草で笑った。
森の中には、とても気持ちのいい風が吹いていた。
「わかった。いいよ」とのんびりと青色の空を見ながら、少し考えたあとで、ぼくは言った。
「え? 本当に?」とファニーファニーは驚いた顔をしてぼくを見る。
「本当にだよ」とふふっと笑ってぼくは言った。
するとファニーファニーは驚いた顔のままで、ぼくの顔を見ながら、にっこりと笑って、「君は変わっているね」とぼくに言った。
ぼくはファニーファニーと一緒に大地の上に立ち上がると、さっそく大きな街までファニーファニーと一緒に行くことにした。
さて、どうしようかな? まずは、服を買って、それから……、。
と作戦を考えながら歩き始めると、ファニーファニーはぼくについてこなかった。
なので「どうかしたの? トイレ?」と言ってぼくが振り返ると、ファニーファニーはもじもじしながら、ちょっとだけ間をおいて、「……、あのさ、ぼくたち、友達にならない?」ととても珍しく(いつもどこか余裕のあるお姉ちゃんみたいな表情をしている)その白いほほをほんのりと赤く染めながら、すごく照れた顔で、ファニーファニーはちらちらとぼくを見ながら、そう言った。