256 幻の種族と呼ばれる白い月兎の少女、ファニーファニーは美しい庭で優しく微笑みながら、ぼくに告げる。君の小さな命には生まれた意味があるんだよって。 泣いてるよ。君。
幻の種族と呼ばれる白い月兎の少女、ファニーファニーは美しい庭で優しく微笑みながら、ぼくに告げる。君の小さな命には生まれた意味があるんだよって。
トロッコ電車
一緒に遊べたらいいな。
トロッコ電車が洞窟の中を走ってる。
ゆっくりと。
明かりのともった小さな洞窟の中を。
走ってる。
そこには風景がある。
いろんな風景があって、その風景の中には、子供たちがいる。
はじめて会うみしらぬ子供たち。
可愛らしい顔をした、小さな子供たちだ。
子供たちは仲良くみんなで遊んでいる。ボール遊びをしたり、追いかけっこをしたり、おしゃべりをしたり、こっそりとお菓子を食べたりして、遊んでいる。
そんな風景をトロッコ電車に乗りながらぼくは見ている。
やがてトロッコ電車はそんな風景の前を通り過ぎていく。
子供たちはみんながぼくに手を振ってくれる。
幸せそうな笑顔で。
でもトロッコ電車が小さな洞窟の線路の道を曲がったところで、少しして、後ろで大きな爆発の音が聞こえる。とても、とても大きな爆発の音だ。
トロッコ電車はもう小さな洞窟の中の線路の道を曲がってしまったから、大きな爆発があったところで(さっきまで可愛らしい子供たちがいたところで)なにが起こっているのかはよくわからない。
……、でも、もう子供たちの笑い声は聞こえてこない。
足音も、話し声も聞こえない。
そこには静寂があるだけだった。
トロッコ電車はゆっくりと小さな洞窟の中を走っていく。
ところどころに橙色の松明の明かりだけが灯る薄暗い闇の中を。
止まることはなく、ゆっくりと、ゆっくりと、……、走っている。
ぼくの心臓はとてもどきどきしている。
ぼくの心はとても激しく、混乱している。
だけど、ぼくはなにもできない。
……、『ぼくは、なにもしない』。
ぼくはただ、泣いているだけだった。
トロッコ電車は小さな洞窟の中にある線路の上を走っている。
ぼくをのせて。
ゆっくりと走っている。
……、そこで、ぼくはこの悪夢から、逃げるようにして、目を覚ました。
泣いてるよ。君。
「大丈夫? 生きてる?」
そんな声を聞いて目を開けると、そこには一人の少女がいた。
少女はじっと、ぼくを見ている。
ぼくはなんだか、まだ夢の続きを見ているみたいで、(どんな夢を見ていたのかは、もう忘れてしまっていたけど)ぼんやりとぼくを見ている少女の顔を夢の続きを見ているような気持ちで見つめていた。
「泣いてるよ。君」
そんなことを言って少女は、眩しい太陽の光を背にしながら、ぼくの顔を指さしている。
……、泣いてる? ぼくが?
そんなことを思って、ほほを触ってみると、たしかにそこには涙があった。(とてもあったかい生まれたばかりの涙だった)
ぼくはゆびに残っている熱い涙を見て、驚いた。(でも、その驚きを顔には出さなかったけど)
その少女はよく見ると、幻の種族と言われる、『白い月兎』の少女だった。(その身体的な特徴から、ぼくにはそれがすぐにわかった)ぼくはギルドの掲示板に目撃情報のあった白い月兎を探して、このあたりの深い濃い緑色の森の中を探索していたのだ。
美しい顔をした小柄な全身が真っ白な少女で、真っ白の長い髪を三つ編みのツインテールの髪型にしている。
白い月の衣(白い月兎の伝統的な衣装だった)をまとい、体のところどころに銀の装飾品(とても高価なものに見えた)を身に着けている。神秘的でとても美しい(月にはない)海のような青色の目をしていた。
なによりも、その小さな頭のてっぺんからぴょこんと飛び出している、二つの白い兎の耳がとても目立っている。(その長い耳で、少女はいったい、どんな声を聞こうと耳を澄ませているのだろうか?)
「君は、きっととても大切なものを失ってしまったんだね」と白い月兎の少女は言った。
「それが悲しくて泣いているんだね」と、ぼくが黙ったままで、ずっと探していた少女をみながら泣いていると、白い月兎の少女はにっこりと笑ってそう言った。
それがぼくとファニーファニーのはじめての出会いだった。