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 ずっと、我慢をしていた涙。

 その三久の涙を見て、鞠も泣いていた。無言のまま、三久は鞠を抱きしめた。(鞠も三久のことを抱きしめてくれた)

 ……先輩らしく、一個上の年上らしく、泣かないでさよならをしようと思ったのだけど、……できなかった。

 結局、私は最後まで、中学校の、そして音楽部の先輩としては、あんまりいい先輩ではなかったな……、と、そんなことを温かくて柔らかい鞠の小さな体を抱きしめながら、三久は思った。

 それから三久は、みんなのいる校庭に戻って、今年西中学校を卒業するみんなと一緒に集合写真を取って、桜を見て、通い慣れた西中学校のもう通ることのない校門を出て、無事に、みんなと一緒に、笑顔で思い出の西中学校を卒業した。

 最後に、三津坂西中学校の門のところを、卒業証書の入った筒を持って、みんなで一緒に駆け抜けたときに、三久はなんだかちょっとだけ、自分が本当に大人になれたような気がした。

 ……それが、すごく三久は嬉しかった。


 半月後。


 三久の東京への引越しの前日。

 三久は鞠と電話でお話をしていた。

「にゃー」と手毬が三久の膝の上で鳴いた。

 手毬は三久と鞠の縁結びの幸運の猫だと三久は(勝手に)そう思っていた。だから三久は、手毬の首輪に『赤い糸の鈴』のお守りをアクセサリーとしてくっつけていた。

 ベットの上に横になっている(引っ越しの準備でへとへとだった)三久は、手毬の頭を撫でながら鞠とお話をしている。

「私、本当に嬉しんです。先輩が音楽を続けてくることが」本当にうれしそうな声で、鞠は言う。

「ありがとう」

 と、三久は言う。(三久は時計を見る。二人はもうずいぶんと長い間、電話をしていた)

 少しの沈黙。

「じゃあ、またあとでね」

「はい。手紙、がんばって書きますね」

「……うん」

「はい」

「じゃあ」

「はい」

「おやすみなさい。鞠」

「……はい。おやすみなさい。三久先輩」

 そう言って、三雲鞠は(名残惜しそうに)電話を切った。


 その日の夜、森三久は三雲鞠のことを思いながら、心を込めて、寝る前に引越しの記念として、三久の両親の前で約束していた通りに、家にあるグランドピアノできらきら星(三久が子供のころにはじめて発表会で演奏した曲だった)を静かに弾いた。

 ……星が、すごく綺麗な夜だったからだ。


 音楽の時間 おんがくのじかん 終わり

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