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「すごく静かだね、猫ちゃん」
ぼくは黙ったまま、ずっと前を向いていた。そのまましばらくの間、壁伝いにまっすぐ進んでいくと、不意に風がその歩みを止めた。「着いたよ、猫ちゃん」そんな風の言葉を合図にして目を凝らして闇の中をよく観察してみると、近くに階段が見えた。階段は下と上に行く両方があった。反対側には休憩所のような場所もある。風はその休憩所に向かって移動を始めた。そしてそこにある木製の丸椅子の一つに「よいしょっ」と言いながらゆっくりと腰を下ろした。
「一旦休憩」そう言って風はぼくの頭を優しく撫でた。
休憩所の背後には久しぶりに黒以外の色が見えた。それは目の覚めるような白色で、ある一定の空間の中を、上から下へと落ちながら、まるでたくさんの散る花びらのようにゆらゆらと舞っていた。
……、それはもうぼくには見慣れた風景だった。
窓の外に降る雪の色。どうやら休憩所の背後の壁には大きな窓があるようだ。
「ふふ。夜の病院って、なんだかわくわくするよね、猫ちゃん」風は窓の外に降る雪を見ていた。「本当はね、わたし、勝手に病室の外に出ちゃいけないって言われてるの。大麦先生がだめっていうの。でもね、わたしはどうしても病室の外に出たかったの。だからこうして大麦先生には内緒で、真夜中の時間に一人で病院の中をお散歩してるんだ。ずっと一人ぼっちのお散歩だったけど、そのおかげでこうして猫ちゃんにも会えたし、今は一人ぼっちじゃなくて猫ちゃんと二人でお散歩している。ふふ。なんだか嬉しいね」とぼくの頭を撫でながら、風は言った。




