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 実際に松の絵を描こうとして、笹は困ってしまった。

 何時間たっても、絵は真っ白なままだった。

 なにも描くことができなかった。

 松はずっと椅子に座っていて、笹のために絵のモデルをしてくれているのだけど、笹は松を見ていても、今の松の絵を描くことができなかった。

 どうしてだろう? と笹は思った。

 こんなことは初めてのことだった。いつだって、松の絵は描こうと思えばいくらでも描くことができた。それは高校生のころから変わっていないことだった。(松がプロの画家になれたのは、高校生のときに松の絵を描いたことがきっかけだった)なんで松の絵が描けないのか、そのわけが笹にはぜんぜんわからなかった。

「笹」と松が言った。

 その松の声はどこかとても遠いところから聞こえてきたような気がした。

「笹はさ。私のこと、好き?」と松は言った。

「好きだよ。高校生のことから、ずっと好き」と笹は言った。(それは嘘ではなかった)

「本当に?」と松は言った。

 本当だよ、と笹は言おうと思った。でも、なぜかその思いは言葉にならなかった。

 松はじっと笹を見ている。笹もじっと松を見ていた。

「……、ねえ、笹。私たち、別れようか?」と小さく笑って松は言った。

 笹はずっと、無言だった。大好きな松の顔を正面から見つめていることしかできなかった。すると少しして、松はその大きな目から涙を流した。

 その松の涙を見て、笹は思わず、ああ、この松の顔ならきっと今の松の絵を描くことができると、そんなことを思ってしまった。

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