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だけど結局高校一年生のときは、松は誰とも恋人にはならなかった。(きっと理想が高いのだとみんなが言った。笹もそうなのかもなと思った)松はいつものように笑顔で、みんなと一緒に高校生活を楽しんでいるように見えた。
高校二年生になると、笹と松は普通の友達になっていた。笹は松に「恋人はいらないの?」と聞くと「まだ私のこと好きなの?」とふふっと楽しそうに笑いながら松は言った。
笹はまだぜんぜん松のことが好きだったので、「好きだよ」と松に言った。でもやっぱりこのときも「ごめん。むり」と言ってふられてしまった。(まあ、別にいいけど)
笹には松という恋をしている少女との二人だけの時間のほかにもう一つ、高校生活の中でとても大切にしている時間があった。それは『絵』だった。
笹は子供のころからずっと絵が大好きだった。だから高校では美術部に入って、絵ばっかりはいていたし、大学は美術大学をうけて、そのまま絵の仕事をしようと思っていた。そんな笹の夢を松は初めて聞いたときに、「すごいね。夢があるっていいよね。私、将来したいことってなにもないんだよね」と目をきらきらさせながら、うらやましそうな顔をして笹に言った。
「松なら、どんなことでも夢が見つかれば、きっとすぐに叶うよ」と笹は言った。(それは笹の本音だった)
「そんなことないよ。笹はさ、私のこと、きっと勘違いしてる」とちょっと怒った顔をして松は言った。