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 聖は白鹿の姫からもらった桜の花の女神の像をお守りとして、天子様の御殿の仕事場に持ってきて大きな石の上に飾っていた。仕事の合間の休憩のときに、聖はそのぶかっこうな桜の花の女神の像を見て、ふふっと楽しそうな顔で笑った。

 ひと月、ふた月、み月と時間はあっという間に過ぎていった。そして、秋が終わり、とても寒くて厳しい冬を越えて、あたたかな春になるころ、聖の御神像は(左右の二体とも)完成した。それは本当にとても、とても見事な彫刻だった。

 聖は満足だった。これ以上の仕事はできない。この彫刻はわたしの生涯最高の仕事だ。誰がなんといおうとこれ以上の彫刻はできない。できあがった御神像を見て、満足そうな顔で笑って聖は思った。

 ……、でも、そんな聖の生涯最高の彫刻の中にも、神様はいなかった。

 結局わたしは神様に会うことができなかった。でも、それはしかたのないことなのだ。わたしはわたしの仕事に満足している。この彫刻はわたしの最高の彫刻だ。これ以上はない。だから、この先にどんな運命が待っていようともわたしは構わない。……、だから、ごめんさない。白鹿の姫。こんな身勝手なお師匠のことを、どうか、どうか許してくださいね。とぶかっこうな桜の花の女神の像を見て、舌を出して笑って聖は心の中で思った。

 そして、天子様が聖の彫刻の出来を拝見するときがやってきた。

 天子様は聖の彫刻を見て、「見事だ」と言った。

 天子様と一緒にいた宰相さまも、都の守護をするお山の大僧正さまも、そして天子様のお抱えの彫刻家としてお仕事をしている名門の家系の彫刻家の棟梁も、おつきの貴族の人たちも、みんなが聖の御神像の彫刻のことをほめたたえてくれた。

 でも、「しかし、この御神像には心がない。中身がなく、からっぽなのだ」と彫刻家の棟梁が言った。

 その彫刻家の棟梁の言葉を聞いて、聖はやっぱりわかっちゃうのか。さすがだな。と思った。(きっとこの年老いた彫刻家の棟梁には聖が見たことがない神様を見たことがあるのだろうと思った。……、すごいな。本当に尊敬する)

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