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心は満たされたけど、お腹はそうはいかなかった。聖は一人ぶんの旅の銭しか持っていなかったからだ。(でも、白鹿の姫をお弟子にすると決めたときからわかっていたことなので仕方のないことだった)
長き日の思いを馳せる
水の中
とても遠く
とても深く
いつしかわたしは
小さなわたしに戻ってる
踏み出すことも
泣き出すことも
できないままで
楽しげに歩く姿に
笑いをこらえ
私はそっと
幸せなのだとふと思う
土をふむ音も楽しそうだ
影法師ははまるで
踊りを踊っているかのようだ
そんな歌を聖は旅の途中で和紙に書いた。(余白に白鹿の姫の絵も描いた)
さて、師匠の書いてくれた紹介文はあるけれど、すぐに銭が稼げるようになるかはわからない。でも、都になら彫刻の仕事はあるだろうと聖は思った。(都にならずっと探している神様もいるかもしれない)
都は聖が思っていた以上に大きなところだった。建物は立派で、人も多くてとても聖は驚いた。でもそんな聖よりもずっとずっと、白鹿の姫のほうが口をあんぐりと開けて、無言のままでとっても驚いていた。(このあとはすっごくはしゃぎ回っていたけど)そんな白鹿の姫を見て、聖はとてもかわいいと思った。