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聖の人生の目標は自分の彫った彫刻の中に、まだ見たことがない神様を見つけることだった。(でも、それは本当に難しいことだった)幼いころから有名な彫刻家の師匠に弟子入りをしてずっと修行をしてきた聖は工房のみんなから、あるいは師匠からも天才と呼ばれた。(確かに聖は彫刻の天才だった。聖の彫った彫刻には本当に命が、あるいは本物の命以上のものが宿っているかのようだった)でも、どんなに完璧な彫刻を掘ったとしても、そこに神様はいなかった。聖は師匠からお許しを得て旅に出ることにした。もう師匠のもとでは学ぶことはなにもなかったからだった。それは、神さまを探しに行く旅だった。
そして聖は生まれ育った故郷を離れて、一人、遠い都を目指して(師匠の書いてくれた都にある彫刻家の工房の紹介文を持って)長い長い旅に出た。その旅はとても刺激に満ちていた素晴らしい旅だった。毎日が、驚きと新しい発見の連続だった。その旅の中で聖は自分の小ささをあらためて知った。(自分はずっと神様の手のひらの上にいたのだと、そんな風に思って聖は笑った)
とくに海を初めて見たときには本当にそう思った。山の近くに生まれた聖は師匠の工房が山奥にあったこともあって山の神秘的な雰囲気には子供のころから慣れ親しんでいたのだけど、海の大きさには本当に驚いた。まるで世界のすべてがここに今、あるような気がした。ざー、という波の音を聞きながら、聖は飽きることなく時間の許す限り、じっと砂浜の上から広大な海の風景を眺めていた。