表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/400

165 兎と海 うさぎとうみ ねえ、海に行こうよ。

 兎と海 うさぎとうみ


 ねえ、海に行こうよ。


 今日も海はとても穏やかだった。日の光を反射してきらきらと輝いている美しい海。風もほとんど吹いていない。十六歳の女子校に通っている高校生、小林兎はそんな海を海沿いの道路の歩道のところから少しの間、眺めたあとで、押していた自転車を邪魔にならないところに止めて、ゆっくりと、石造りの小さな階段をおりて、白い砂浜まで歩いて行った。

 兎はそのまま海の波がやってくるところまで歩いていく。(砂を踏む感覚が楽しかった)優しい風が兎の美しい長い黒髪を小さく揺らしている。兎は波のやってくる少し前のところの白い砂の上に座った。そこからまた海を見る。

 学校帰りの兎は高校の制服姿のままだった。制服の紺色のスカートが砂まみれになってしまうけど、ずっと海の近くで暮らしてきた兎にとって、それはいつものことだった。海や砂浜は(それに波の音も、海の匂いも)いつも兎の近くにあった。

 ……、ざー、と言う波の音が聞こえる。

 少しして、兎は『自分が泣いている』ことに気がついた。おかしいなと思って、ほほに手をやると、そこには涙の粒があった。兎は、その温かい涙に触れて、……、あ、わたし泣いてるんだ、と思った。泣くつもりなんて全然なかったのに、こうして涙を流していると、自分はきっと泣くためにここにきたのだと思った。

 兎はむかしからずっと、小さな女の子のときから、海を見ながら泣いていた。海は兎にとって涙を流すところだった。

 海はいつも優しかった。まるで、お母さんのようだと兎は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ