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 先生はわたしにたくさんの絵を見せてくれた。それは『絵本の先生』である先生が描いた自分の作品の絵だった。わたしは先生の描いた絵本が本当に小さな子供のころから大好きだった。だからその時間は、すごく素敵な時間だった。わたしは夢中になって先生の絵を見ていた。

「先生はどうして絵本を書こうと思ったんですか?」といろんなカラフルな可愛らしい動物たちの(先生の絵本は動物の絵本ばかりだった。ふとっちょな小鳥の絵本をのぞいては、みんな動物の絵本だった)絵を見ながらわたしは言った。

「絵と物語が大好きだったから」と先生は言った。でもその先生の言葉は嘘だとわたしは思った。(あまりにも先生の返事が早かったからだ。きっとわたしのために先生が用意をしてくれた言葉のひとつなのだと思った)わたしは先生の本当の答えを知りたかったけど、もちろん先生にそのことを聞くことはできなかった。

 先生の絵本はたくさんあったけど、その中でもわたしは『ふとっちょな小鳥』という題名の絵本が大好きだった。

 さっき絵本のもとになかったという先生の子供のころの自画像である同じ題名の絵を見せてもらったばかりだった。そんなことを思いながら、ふとわたしは先生に「あの、もう一度ふとっちょな小鳥の絵を見せてもらってもいいですか?」と先生に言った。先生はふとっちょな小鳥の絵をアトリエのすみに白い布をかけて片付けていたのだけど、わたしの言葉を聞いて「もちろん。いくらでも見ていいよ」と明るい声で言って、ふとっちょな小鳥の絵をもう一度アトリエに出してわたしに見えるようにしてくれた。

 ふとっちょな小鳥は、もしいつもの先生の作品の内容だと、きっとふとってしまって空が飛べなくなってしまった小鳥が頑張って親鳥やいろんな動物たちに助けてもらいながら、もう一度、空を飛ぶお話になると思った。でも『実際のふとっちょな小鳥の絵本の物語は、それとは全然違うもの』だった。

 休憩時間の間、先生が持ってきてくれた冷たくて美味しい牛乳を飲みながらわたしは先生のふとっちょな小鳥の絵を見て過ごした。

「それじゃあ始めましょうか?」と休憩時間が終わって先生は言った。

「はい。よろしくお願いします。絵を見せてもらってありがとうございました」とわたしはちょこんとあたまをさげて先生にそう言った。そんなわたしを見て先生は楽しそうにころころと笑った。

 書きかけの絵を目の前にして真剣な顔になった先生は「わたしの世界を救うために」と絵を描き始めるときに、ひとりごとのようにつぶやくようにして小さな声で、そう言った。

 ……、『わたしの世界を救うため』に、とわたしは自分の頭の中で、その手に先生に貸してもらった芯の尖ったえんぴつを持ちながら、先生の言葉を繰り返して、そう言った。

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