136
「あなたはこれからの人生で本当にたくさんのものを手に入れることができるよ」と先生は言った。
「あなたの世界は真っ暗な闇に包まれている? それとも明るい光がある? あなたには今、きちんと世界が見えている? 世界の美しさが、きらきらと光り輝く世界が見えているのかな? あなたの世界に色はあるのかな? それとも無色透明なままなのかな? あなたは自分の世界をどうしたいと思ってるのかな?」と楽しそうな声で先生は言った。
……、わたしは、きっと世界を壊したいと思っているのだと思った。なんとなくだけど、そんな気がしたのだ。わたしはわたしの中にある世界を実際に壊したことが何度もあった。壊して壊して、また初めから創造した。違う世界を。何回も何回も。その世界の中では、おんなじような人たちがいつもいた。みんなはまるで生まれ変わった違う人のようにわたしの創造する世界の中で違う人生をおんなじような顔で、おんなじような心で生きていた。
「もしもね。今ここに。あなたの目の前にさ。あなたの大好きな人がいたとしたら、あなたはどんな言葉でその大好きな人に自分の想いを伝えると思う?」とっても楽しそうな顔で先生はわたしに言った。先生のキャンパスの中の絵はもうそろそろえんぴつでの素描が終わりそうに見えた。わたしのキャンパスは真っ白なままだった。(一番最初が一番大変なんだと先生は言ってわたしを励ましてくれた)わたしはずっと黙っていた。
「それじゃあ、逆にね。もしもね、今ここに、世界に絶望している人がいたとしたら、その人にあなたがこれからも生きていて欲しいと思っていたとしたら、あなたはどんな言葉でその人に世界の素晴らしさを伝えると思う? 生きていることの素晴らしさをどんな『魔法の言葉』で伝えると思う?」と先生は言った。
わたしはうーん、と悩んでから「幸せになってね、って言うと思います」と先生に言った。すると先生はすごく驚いたみたいで、えんぴつを動かす美しい形をした手を止めて、その綺麗で大きな目をもっと大きくした。(わたしには先生がどうしてそんなに驚いているのか、そのわけがわからなかった)