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先生はすらすらと絵を描き始めたけど、わたしはあんまりえんぴつを動かすことができなかった。ずっとうんうんとうなって悩んでいると、先生はえんぴつを動かしながら(尖った芯のえんぴつを持っている先生の細くて白い手はなんだかとっても綺麗だった。まるで芸術品のようだと思った)わたしにまたお話をしてくれた。
「ねえ、お友達はいる?」と先生は言った。わたしはお友達がいなかったから、黙っていた。すると先生はそんなわたしを見て、わたしにお友達がいないことをわかってくれたみたいだった。
「みんなお友達は大切だって言うでしょ? 確かにね、お友達は大切だし、たくさんのお友達と一緒におもしろいことや楽しいことに夢中になるのもすごくいいことだと思う。でもね、それでもお友達は、あなたのことを本当に助けてはくれないのよ。それはお友達が悪いんじゃないの。あなたも私もそうなの。人はね。本当には誰かのことを救うことはできないの。あなたはあなたしか救えないの。みんな自分しか救えない。助けてあげることはできるかと、本当のところは自分でなんとかするしかないの。だからあなたはあなたを救えばいいの。それだけでいい。それが一番正しいことなんだと思うの。ずっと孤独な人っていうのはね、そういうことをはじめから、わかっている人のことなんだよ。きっとね。みんなとても優しい人ばっかりなんだ。あんまりおしゃべりじゃない今のあなたのようにね」と先生は言った。
「つまりね、私がなにを言いたいのかと言うとね、お友達なんていてもいなくてもいいってことなんだよ」と先生は言った。
わたしが黙ったままでいると、「ねえ、私たちさ、お友達になろうか? 世界で一番仲のいいお友達にさ? どう? すごくいい思い付きじゃないかな?」とにやにやと笑って、先生はわたしの顔を覗き込むようにしてそう言った。
わたしは先生の言葉に驚いた。でもわたしは先生とお友達になりたかったので、「はい。わたしも先生とお友達になりたいです」とすっごく恥ずかしかったけど、顔を赤くしながら、先生にわたしは言った。
「ありがとう」と先生は言って、それからわたしの体をぎゅっと強く、優しく、抱きしめてくれた。それは本当に突然だったから、(本当に突然だった。先生もそんなことをするつもりはなかったんだとわたしは思った)ちょっとだけびっくりしたけど、わたしはなんだかすっごくうれしかった。そのまま先生は黙ったままで、長い間、わたしのことをずっと抱きしめてくれていた。誰かにこんなふうに長い時間、抱きしめられたことはなかったので、わたしはなんだか本当にうれしくて、幸せだった。