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「孤独な人はね、とても強い人なのよ」と先生は言った。「まあ同時にとても弱い人でもあるんだけどね」とコーヒーのカップの中を見つめながら先生は言った。チョコレートケーキはもう全部食べ終わっている。そこにはからっぽになった二つの真っ白なお皿があるだけだった。

「わたしもそうだからよくわかるの」

「先生が、ですか?」とわたしは言った。

「そうよ。すっごく孤独なの。でも今日はあなたがいてくれるから、あんまり孤独じゃないけどね」とわたしを見て先生は言った。

「孤独な人は自分の世界を持っている。自分の頭の中に、自分だけの大きな世界を創り出して、その中で毎日毎日とても楽しく安全に遊ぶことができるの」先生は言う。

「私にはあなたがとっても大きな世界の中で生きているのがわかる。あなたが大切にしているものがその世界の中には全部ある。なにもかもがね。今、あなたはここにいてわたしとお話をしているけど、実は本当のあなたはここにはいないの。あなたの頭の中にある大きな世界の中で、きっと今も自由に楽しく遊んでいるのね」とふふっと笑って先生は言った。

 わたしはじっと黙ったままで先生のお話を聞いていた。(黙っているのも、すごく得意だった)先生は構わないでお話をした。まるでずっと黙っているわたしのぶんまで先生が二人ぶんのお話をしてくれているみたいだった。

「どう? お勉強は好き?」と先生は言った。

「あんまり好きじゃありません」と小さな声でわたしは言った。すると先生はころころと笑って「うん。だいぶ素直になったね。えらいえらい」とわたしの顔を見て言った。(手を伸ばして、わたしの頭もなんどかなでてくれた。嬉しかった)

「先生。わたしはこの世界に生きていていいんでしょうか?」とチョコレートケーキのお皿を先生と一緒に並んで洗いながら、わたしは言った。

「いいに決まってる」と先生は手を止めないままてにっこりと笑ってわたしに言った。

「それは本当ですか?」先生の顔を見てわたしは言った。

「本当」と優しい声でわたしを見て先生は言った。「本当に決まってる」と先生は言った。そんなことを誰かに言われたことは今まで一度もなかったので、わたしはなんだかとっても泣きたいような、大きな声で叫び出したいような、全力で走り出したいような、そんな不思議な気持ちになった。そうなんだ。『わたしはこの世界に生きていてもいいのだ』と、わたしは思った。(わたしの手はもしかしたら少し震えていたかもしれない。もしかしたら今ここにいるのは本当のわたしなのかもしれないと、そうお皿を洗いながら、わたしは思った)

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