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「あなたは本当になにもしゃべらないのね」と楽しそうな顔をして先生は言った。

 わたしは口を閉ざしたままで、先生の顔を見て、それからそっと顔を下に向けてぴかぴかの床を見た。

「大丈夫。わかってるから。無理に話をしなくていいよ。頭の中でたくさんおしゃべりをしているのは、よくわかっているからさ」とふふっと笑って先生は言った。

 先生はてきぱきと動いて、とんとんとんと心地よい音を立てながら、ジャガイモを切った。ぐつぐつと鍋の中ではざく切りにされた野菜が煮込まれている。買い物袋の中にはカレー粉があった。どうやら今日の夕ご飯はカレーのようだった。わたしはキッチンにある椅子に座っていて、そんな先生の料理をする風景をじっと見ていた。

「カレー。好き?」先生は振り向いてわたしを見る。わたしはこくんと顔を動かして「はい。好きです」と小さな声で先生に言った。「よかった。嫌いな野菜とか、食べものとかある?」先生はにんじんをとんとんと切る。「ピーマンが嫌いです。あとはうめぼしが食べられません。生野菜も苦手です」とわたしは言った。「私もうめぼしは食べられないの。でも野菜は食べれる。そっか、生野菜は食べられないのか。残念。野菜おいしいのに」と料理をする手を止めないままで先生は言った。

 先生と出会ったとき、わたしは小学校の六年生で十二歳だった。先生の年齢はよくわからない。とても若くて綺麗だったから、きっと二十代だと思うけど、くわしいことはよくわからなかった。(わたしはお父さんとお母さんから言われた通りに先生と会って、先生と過ごしただけだったから)

 わたしは先生の料理のお手伝いがしたかったのだけど、先生は「いいのよ。そこに座っていて。あなたはお客さまなんだから」と言って、料理の手伝いをしないてもいいといった。だからわたしは言われた通りにキッチンの椅子に座ってじっとしていた。(じっとしているのは得意だったので、わたしはそこから黄色いエプロンを付けた先生の背中をずっと見ていた)

 先生の家のキッチンはとても綺麗で、ものが少なくて、きとんと整理整頓されているキッチンだった。小さな冷蔵庫に、電子レンジがあって、洗い場とコンロがあって、食器のはいっている棚があって、四角い(格子模様のテーブルクロスのひかれている)テーブルと背もたれのある椅子が二つあった。テーブルの上には花瓶があって、綺麗な花が飾ってあった。そのお花は庭の小さな花壇に咲いていた花のひとつと同じ花だった。(わたしにはその花の名前がわからなかった)

「ふんふん、ふーん」と先生は鼻歌を歌いながら、小さく体を揺らしながら料理をしていた。そんな先生はなんだか舞台の上で踊っているみたいで、とっても楽しそうだった。

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