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128 風の旅行の終わり 忘れることなんて、できそうにもないね。

 風の旅行の終わり


 忘れることなんて、できそうにもないね。


 不思議な充実感があった。なにかを手に入れたという確信があった。だからぼくは安心していた。安心して、自分の意識を手放すことに成功した。

 自分の感情が拡散していくことがわかる。ぼくの魂はきっと夜の中に溶け出しているのだ。うん。……これでいい。……これで(きっと)いいんだ。

 ぼくの意識はだんだんと曖昧になり、……やがて、完全に途切れた。

 ぼくの夢が、終わるのだ。

(そう。そうなんだ。これはぼくの見ている夢の中の世界。ぼくはずっと、ずっと長い、長い不思議な夢を見ていたんだ)

 あらゆるものがぼくの中から消えていく。すべては夢。すべては幻。ぼくはここにいる。……ぼくは、ここにはいない。(そして神さまがすべてをいつも見守ってくれている。とっても高い空の上から)なんだろう? この感じ……。不思議な感じだ。今なら世界のありとあらゆるすべてのことを許せるような気がする。ぼくの嫌いなもの。ぼくが遠ざけてきたもの。ぼくの嫌いな人。ぼくを嫌っている人。今、ぼくの知っている小さな世界。その外側にある、まだぼくの知らない大きな世界。そこで暮らしている、名前も顔も知らないすべての人々。あらゆる命。それに連なる現象。それらを全部、受け止められるような気がする。(すこしだけ大げさな表現だろうか?)

 今ならどんなことでも、できるような気がする。

 ……でも、それはきっとそんな気がするだけなのだ。……夢が覚めたら、ぼくはまたすべてを忘れてしまうのだろう。なにもかもを忘れて、いつもの不甲斐ない自分に戻ってしまうのだろう。ぼくが自分の思う通りのぼくで居られるのは夢の中だけ。現実ではそうはいかない。現実の世界には、ぼくの邪魔をする他人がいるから。(それもたくさん。いっぱいだった)

 ……だけど、まあ、それでもいいや。こうしてずっと寝ているよりはずっといい。夢から覚めるのも悪くない。……うん。全然悪いことじゃない。さあ、目を開けよう。

 目を開ければ、そこは現実だ。現実の世界なのだ。ぼくは現実の世界に戻ってきた。現実の自分の部屋の中に、見慣れた世界の風景の中に戻ってきたんだ。だから目を開けて、世界を感じろ。そうしてまた、昨日と変わらない今日を始めるんだ。

『いつか、世界を本当に変えるために』。

『いつか、世界を、本当に救うために』。

 ぼくは決意する。

 それは静かな決意。だけど、とても強い決意だ。

 その決意とともに、ぼくは夢の世界の中を抜け出して、現実の世界の中に帰還した。

 この瞬間、ぼくは新しく生まれ変わったのだ。古いぼくを脱ぎ捨てて、新しいぼくになったのだ。(きっと、みんながいつか、どこかでそうしているように)

「さようなら。ばいばい」と大粒の涙をぽろぽろと流しながら、ぼくは言った。

「うん。さようなら。今まで、本当にどうもありがとう。きみに会えて、きみと友達になれて本当によかった」と不思議な声が(やっぱり泣きながら)返事をした。

 その声を聞いて、ぼくは泣きながら、にっこりと笑った。

 ……そして、ぼくの目覚めとともに、(新しい、美しい朝と一緒に)世界に新しい綺麗な一輪の(少しへんてこな)花が咲いた。


 猫とぼくと風の旅行 ねことぼくとふうのたび 終わり

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