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それは夢もなにも見ない、……本当に深い眠りだった。自分の周囲に誰かの視界を遮ってくれる、……そして自分自身を守ってくれる大きな青色のバスの白い待合小屋の屋根と壁があるという状況が、ぼくに安心感を与えてくれたのかもしれない。……ぼくは、ぐっすりとその場で熟睡した。……そして目が覚めたとき、ぼくの周囲は真っ暗になっていた。(すごくびっくりした)それは真夜中の時間だった。ぼくは辺りが真っ暗になるまで、大きな青色のバスの白い待合小屋の中で眠り続けてしまったのだ。
目が醒めるとぼくの頭の中はとてもすっきりとしていた。……そりゃ、これだけ寝れば誰だってそうなるだろうな、とぼくは一人で考えて、一人で笑った。それからはっとして、自分の膝の上を確認すると、風からもらった小さな鉢植えは無事だった。それを見てぼくはよかったと思った。ぼくの(木のベンチに座っている)姿勢は眠る前とあとでまったく動いていなかった。(若干、猫背気味になってはいたけど)
自分の寝相がそれほど悪くないことを、ぼくは自分でも知ってはいたけれど、こんなに動かないことは珍しかった。きっとこの小さな鉢植えを(眠っている間も、ずっと)守るという意識だけは、ぼくの認識している普段の意識よりも、もっと、もっと深い場所にも、ちゃんと残っていたのだろう。ぼくはなんだか、それが確認できて嬉しかった。(すごく疲れていただけかもしれないし、運がよかっただけかもしれないけど)自分が少しだけ、以前よりも『なんだか、いい人間』になれたような気がした。ぼくはその場で「うーん」と言って、思いっきり両手を上げて(もちろん、膝の上にある小さな鉢植えを落とさないようにしながら)背伸びをした。それから小さな鉢植えを大切に両手でしっかりと持って、大きな青色のバスの白い待合小屋の外に出た。
……すると夜空は、美しい満天の星空に包まれていた。