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一人になると、ぼくは空っぽになった大きな青色のバスの白い待合小屋の中に戻って、さっきまで自分が座っていた木のベンチの上に座った。そこでなにをするでもなく、風にもらった小さな鉢植えの中から顔を出している小さな緑色の芽をずっと見つめていた。……、ぼくはなんだかとても疲れてしまっていた。(きっと迷子の子猫探しを風と一緒に頑張ったからだと思った)
そのことにぼくは今、はじめて気が付いた。そして、ずっと忘れていた過去をなにかの拍子にふっと思い出すかのようにして、ゆるやかで、でもとても深い、強烈な(ずっと忘れていた)眠気が蘇ってきて、ぼくの心と体を支配するようになっていった。
……そういえば、ぼくは(風とはじめて出会ったとき)あの大きな自然公園の白いベンチの上で居眠りをしていたんだっけ? とそんなことをぼくは思い出した。……そうだ。ぼくは眠かったのだ。……きっとぼくはちょっとだけこの美しい場所で居眠りをするために、この気持ちの良い桜色の四月の風の吹く、春の大きな自然公園にやってきたのだ、とぼくは思った。だからぼくは眠ろうと思った。でも、自分が眠っている間に、風からもらった小さな鉢植えを落とさないか心配だった。そのためには木のベンチの上に小さな鉢植えを避難させなければならない。(そうすればいい)だけどぼくはそれを手放すことができなかった。ずっと、小さな鉢植えを手に持っていたかった。抱きしめていたかったのだ。……風からこの大切な贈り物をもらうとき、どうせなら白い手提げ袋ごともらえばよかったかな? とそんなことをぼくは思った。風もぼくも、大切な贈り物を贈ったり、それをもらったりしたあとのことなんて全然考えていなかった。(大切な贈り物をすることで頭がいっぱいだった)そんなことを思って、ぼくはにっこりと(なんだかすごく微笑ましくて)笑ってしまった。それがぼくがとても深い眠りに落ちる前に思い浮かべた最後の思考だった。
ぼくはゆっくりと(うとうととする)目をつぶった。
……、ぼくは、あっという間に深い、深い、眠りの中に落ちていった。