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小さな女の子が指差す場所には確かにバス停のようなものが立っていた。その隣には休憩用の小屋のようなものもあった。ぼくはそれらの建物を見て、あんなもの、さっきまであの場所にあっただろうか? と少しだけ首をひねった。「あのバスに私は乗るんだよ」と小さな女の子は言った。「あれに乗るって、間に合うの?」とぼくは言った。三人組の大人たちに追いかけられたり、突然、天気雨が降ったり、目的の迷子の子猫を見つけたり、大きな青色のバスが来たり、いろいろと随分と急な話だと思った。(みんな忙しいんだなと思った)「大丈夫。ちゃんとわたしたちが乗るまで待っていてくれるんだよ」と(自信満々の顔で)小さな女の子は言った。そんなことがあるのだろうか? とぼくは思ったのだけど、小さな女の子は平然としていた。バス停のある場所にバスが到着するのとちょうど同じころ、三人組の大人たちがぼくたちのところまでやってきた。
その三人組の大人たちを待っている間に、小さな女の子は先生たちの話、小さな女の子のお母さんとお父さんの話、そして黒猫の子猫の話などをぼくにいっぱいしてくれた。
その(いろいろと話がいろんなところに飛ぶ)お話によると、小さな女の子から先生と呼ばれる年老いた男性は、学校の先生ではなくて、どうやらお医者さんのようだった。しかもそのお医者さんの先生は小さな女の子の掛かり付けの担当をしているお医者さんだと言うことだ。そのお医者さんをしているという男性に小さな女の子はこっぴどく叱られて、それからぼくも同じように(ふん! と言いながら、睨みつけられてから)こっぴどく叱られて、それから軽い嫌味を言われた。
……、でも、そのお医者さんの先生に怒られたことをぼくはとくに理不尽だとは思わなかった。(もちろん、少しはむっとしたり、嫌だなと思ったけど)自分のやったことは怒られて当然だと思ったからだ。ぼくがお医者さんの先生に怒られている間、そのお医者さんの先生の背後には隠れるようにして小さな女の子が立っていた。ぼくよりも先にお医者さんの先生に叱られた小さな女の子はそういうことに慣れているのか、けろりとしていた。ぼくが怒られ終わると、小さな女の子はすぐにぼくのそばにやってきて、健康的な赤色をした舌を出してから、「ごめんね」と小さな声で(笑いながら)ぼくに言った。その態度と言葉を聞いて、見かけによらずに小さいのに、なかなか強い女の子だな、とぼくは思った。