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黒猫の子猫を抱きかかえた小さな女の子はぼくのほうを振り返った。
「ありがとう。猫ちゃん、見つかったよ」と小さな女の子は嬉しそうな顔で言った。だけどぼくはそんな嬉しそうな小さな女の子に笑顔で、よかったね、と一言、言ってあげることができなかった。ぼくは遠慮がちに小さな女の子に(小さな)笑顔を返した。
目的の黒猫の子猫を捕まえて、三人組の大人たちから逃げる理由を失った小さな女の子は黒猫の子猫を抱きしめたまま、ぼくの前までやってきた。小さな女の子の腕の中でじっとしている黒猫の子猫はその二つの緑色の瞳をじっとぼくに向けていた。
天気雨はまだ、降り続いている。
「……じゃあ、雨が止むまでベンチのところで雨宿りしようか?」とぼくは言った。
「うん! そうする!」と元気な声で小さな女の子は言った。
ぼくは嬉しそうに黒猫の子猫を抱える小さな女の子と一緒に白いベンチの上に座って、三人組の大人たちがここまでやってくるのを待つことにした。
一度、強まった天気雨は今度はすぐにその勢いを弱めていき、(天気雨は通り雨のようなものだから、すぐに強くなったり、弱くなったりした)……やがて雨は上がった。空は元の気持ちの良い青色をした春の四月の空に戻っていった。そんな春の四月の青色の空には大きくて綺麗な二重の虹があった。(逃げている途中で、小さく見えていた虹だった。その虹がいつの間にかこんなにも大きくなっていたのだ。思わず、ぼくは小さな女の子と一緒に、青色の空の中に浮かんでいる浮橋のような、その大きな弧を描く七色の二重の虹の美しさに見とれてしまった)
大きな木の緑の葉や、緑の芝生に残っている、天気雨の雫が太陽の光りを反射して、きらきらと輝いている。
そんな風に、いつの間にか、ぼくの見ている世界中が美しく光り輝いていた。
「あ、バスだ!」と小さな女の子は言った。
小さな女の子は遠いところをその小さなひとさし指で指差している。
ぼくがその小さなひとさし指の先に目を向けると、確かにそこには小さな女の子がぼくに説明してくれた通りの大きな青色のバスが(距離が遠くて、まだ小さくだけど)見えた。大きな青色のバスはこちらに向かって大地の上を移動しているようだ。
「あのあたりにバス停があるんだよ」と小さな女の子が(とても楽しそうな顔をして、ぼくを見て)小さな指を動かしながら、ぼくにそんなことを教えてくれた。